元プロが指導する野球塾、子供たちへの思い 「甲子園、プロが全てじゃない」

西武・オリックスで活躍した原拓也氏(写真奥)【写真:荒川祐史】

関西の野球塾で子供たちに指導する元オリックスの原拓也さん

 第100回全国高等学校野球選手権記念大会は8月5日から甲子園で開催される。各都道府県の代表校も決まるなど、地方予選もいよいよ大詰めを迎えている。甲子園を目指したり、大学、社会人、プロ野球を目標に入れる小、中学生の球児たちは、クラブチームなど様々なフィールドで夢に向かって日々、練習を行っている。

 そんな中、元プロ野球選手たちが指導する「野球塾」が近年、数多く存在している。西武、オリックスで活躍した原拓也さんも、関西にある「ブリスフィールド・スポーツアカデミー・ベースボールスクール」で子供たちに野球を教える1人だ。

 週5日、一番下は幼稚園、上は中学3年生まで男女問わず野球の基本動作、技術などプロで学んだ技術を伝える。子供たちの年齢によって伝え方は様々。プロでは当たり前のようにやってきたことも指導となると勝手は違うという。

「やっぱり難しいですよね。簡単な動作でも子供にとっては捉え方は違う。どうやったらうまく伝わるか。自分の中でも毎日、自問自答しながら。今日はできなかったけど、次のレッスンでは1つできることが増えている。子供の成長スピードはすごいです。だからこそ、変な癖などを付けないように注意してます。若い時についた癖ほど直すのに時間がかかってしまいます」

 生徒たちは小学生のチーム、中学のクラブチームの練習がない日などに“元プロ”の指導を受け、技術を磨いている。だが、アメリカとは違い、日本の高校生以下の育成には様々な“制限”がかかっていることに違和感を覚えているという。

自らにあった指導を自由に選択できる時代へ

「今は選択肢が多いですが、クラブチームによっては『違うところで指導を受けるな』と話す指導者もいるのが現状です。進路などで色々なことがあると聞きますが、ちゃんとした基本を身に付けないと上で野球をするにつれて困るのは子供たち本人。自分たちがプロで教えてもらっていたことを、今は早ければ小学生の子供たちが実践できる。本人、親にとっては自由に選択できることが一番だと思いますね」

 もちろん、プロの指導が全てではない、と原さんは語る。様々な指導者から自分にあったものを選び、合わなければ聞き流すことも必要だという。

「プロでもそうですから。コーチの言うことを全て聞き入れてやれば1軍で活躍できるかと言われればそうじゃない。自分に合うものを取り入れることが一番。強制はしないですが、野球の基本は教えてあげられる。そこにプラスして自分の経験、他の一流選手がやってきた練習も伝えられます」

 昔とは違い、根性論ばかりの指導はナンセンスな時代。科学的なトレーニングも取り入れられるなど指導の幅も広がりを見せている。近代野球の育成論について原さんの考えは一貫している。

「厳しい練習が絶対ダメってことではないと思う。野球ができなくなるほど大きなケガに繋がることは論外ですが。僕は内野手でしたが、やっぱり下半身が強くないと球際の強さとかは生まれない。じゃあそのために何をするか? 走り込みは必要ですし、筋力トレーニングもやります。トップ選手があれはダメ、これはダメって言うことを、大きくメディアが報道すると、言い方は変ですが楽なトレーニングに逃げる子供もいる。難しいですよね」

原拓也氏は週5日、幼稚園児から中学3年生まで男女問わず指導している【写真:荒川祐史】

「厳しくて辛い練習を乗り越えた自信は、ここ一番の場面で絶対に生かされる」

「僕の中で全てとは言いませんが、根性論的なことはやっぱり必要だと思う。厳しくて辛い練習を乗り越えた自信は、ここ一番の場面で絶対に生かされる。自分の野球人生を振り返ってもそう思えますから。理に適ったトレーニングに、精神的な強さも必要です」

 野球塾には子供たちの両親が付き添い、約1時間(最長3時間)の指導を見守っていることもある。だが、原さんは親の顔色をうかがいながら指導することは絶対にない。幼稚園、小学生、中学生を相手に言葉を選びながら、野球に真剣に向き合ってもらえるよう心がけている。

「ダラダラしていたりやる気がない子がいれば普通に怒ります。『もう帰っていいよ』って。安くはないお金を払ってここに来てもらっているのに、中途半端になっては申し訳ないですから。子供はそこまで考えてないですからね(笑)。誰のためにやっているか、両親に感謝することも忘れないでほしい。教え子たちが将来プロ野球選手になってくれれば一番ですが。でも、甲子園、プロが全てじゃない。野球を通じてこれからの人生の基盤を作ってもらえたら嬉しいですね」

 引退してから2年が過ぎ、第2の人生をスタートさせた原さん。プロ10年間の自らの経験を踏まえ、子供たちに指導を続けている。(橋本健吾 / Kengo Hashimoto)

© 株式会社Creative2