産業遺産国民会議専務理事 加藤康子さん(56) 登録の立役者 情熱の限り 地元が元気になるため奔走

 「彼女こそ世界遺産登録の立役者」。関係者が口をそろえてたたえる。この10年以上、「明治日本の産業革命遺産」(本県など8県の23施設)を世界遺産にするために全国を飛び回り、あらん限りの情熱を注いできた。
 東京生まれ。安倍晋三首相の父、故安倍晋太郎氏の側近として知られた政治家の故加藤六月氏の長女。慶応義塾大を卒業後、米ハーバード大大学院に留学。産業遺産を活用して過疎地域を再生した海外の事例を研究した。帰国後は都市経済評論家と実業家として活躍する傍ら、ライフワークになった産業遺産の調査研究を続けた。そして「九州・山口の近代化産業遺産群」の世界遺産登録活動にコーディネーターとして深く関わるようになった。
 「挑戦することが大好き」と自認する型破りの行動力で道を切り開いてきた。相手が誰であれ率直に物を言う。一日に数十通の電子メールを特定の相手に送るのも珍しくない。幼なじみの安倍首相は3度まで自ら返信してくるという。「豪放かつ緻密」と評された父をほうふつさせる政治力を高く評価する関係者は多い。世界遺産登録をめぐる日韓調整が難航する中、内閣官房参与に急きょ任命され、世界遺産委員会でのロビー活動も担った。
 軍艦島上陸ツアーを手掛ける長崎市の船会社、軍艦島コンシェルジュの久遠裕子統括マネジャー(50)は「何の見返りも求めず手弁当で働き、世界遺産登録を実現した。本当に頭が下がります」と感謝する。
 登録決定直後は「感無量です」と苦楽を共にした関係者と喜びを分かち合った。「長崎は常に外へ向かって開かれた窓だった。長崎に三菱が存在したことが日本の産業化の大きな力になった。長崎はきっと歴史のハブ(中枢)になれる」。地元が先人の遺業を見つめ直し、元気になることを何よりも願っている。

登録決定後の祝賀会で田上富久長崎市長と語り合う加藤さん(右)=ドイツ、ボン市内のホテル

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