ジャイアント・カンチレバークレーン運転士 山中章さん(67) 技術と心 次代へつなぐ 国内最古、保守点検怠らず

 「明治日本の産業革命遺産」の構成資産に含まれる三菱重工長崎造船所(長崎市飽の浦町)の「ジャイアント・カンチレバークレーン」。1909年に設置された国内最古の電動クレーンと思えないほど、滑らかな動きを保っている。「現代のクレーンとは全く構造が違う。日常の保守点検を怠れば即、故障します」
 72年に入所。仕事はクレーン一筋だった。2012年に退職後、長田工業(同市)に再就職。クレーンを扱う三菱日立パワーシステムズ(本社横浜市)の社員に操縦や整備を指導している。クレーンを知り尽くした生き字引的存在といえる。
 「昔の先輩は厳しかった」と言う。先輩たちの会話に耳をそばだて、仕事のヒントをつかむと、高さが61・7メートルあるクレーンの長い階段を駆け上り、機械を見に行った。「仕事は盗むものだった。そうした方が早く覚えるから」
 クレーンが今も動いているのは、油差しなど保守点検を入念に行い、いたわるように使っているからだ。「粗暴運転をすればすぐ故障する」と若い運転士が操縦する時は隣で見守る。「(指導は)優しいです」と運転士3年目の大宮忠明さん(30)。
 30年ほど前、ギアが普段と違う軽い音を立てたことがあった。不審に思いよく調べると、たくさんの小さな亀裂が走っていて、上から塗装したために見えづらくなっていた。もし異常を見逃していたら、クレーンはいま、動いていないかもしれない。
 「運転士は最高の整備士であれ」が信念。歴代の運転士が構造に精通し、しっかり整備してきたからこそ、クレーンは生き延びている。職場には、不具合のたびに運転士が書き込んだ点検ノートが伝わる。「先輩からしっかり学んで世界遺産を守っていきたい」と大宮さん。培われた技術と心は次の世代へ引き継がれていく。

現場で後輩を指導する山中さん(右)。「優れた後進が育っている。もう大丈夫」=長崎市、ジャイアント・カンチレバークレーン前

© 株式会社長崎新聞社