【特集】「むかーし、むかしのことじゃったぁ」 時代の振付師、クリエイターたち(2)

人気アニメ「まんが日本昔ばなし」のDVDと亡くなった常田富士男さん(右)

 市原悦子さんとのコンビでTBS系のテレビアニメ「まんが日本昔ばなし」の語り手を務め、独特な存在感を放った常田富士男(ときた・ふじお)さんが亡くなったのは7月18日だった。この月に訃報が報じられた元劇団四季代表の浅利慶太さん、俳優加藤剛さんに続いて、常田さんの逸話を取り上げる。「むかーし、むかしのことじゃったぁ」。郷愁をかき立てる、あの温かい語り口調は多くの人の耳に残っている。(共同通信=柴田友明)

 

 「まんが日本昔ばなし」

 

 「殺伐とした世の中に、昔話のゆったりとした時間が家庭に流れるのもいいよねえ」「日本人が忘れていたものを思い起こし、心を穏やかにする内容が支持されたと思う。辞めたいと思ったことはなく、むしろ辞めさせられるのでは、と危機感があった」

 1975年から94年までアニメ「まんが日本昔ばなし」ナレーションを務めた常田さん。2005年に11年ぶりにゴールデンタイムに復活放送されたことについて、共同通信のインタビューにこう感想を述べている。高校を卒業後、劇団民芸の養成所に入った。バラエティー番組「ゲバゲバ90分」で名前を知られるようになった。中高年の方だと覚えているだろう。黒沢明監督の「赤ひげ」、今村昌平監督の「楢山節考」「うなぎ」などに脇役として出演。宮崎駿監督の「天空の城ラピュタ」にポムじい役で声優をしたと言えば、若い人もうなずくだろう。

 

名コンビ、常田富士男さん(左)と市原悦子さん(右)

 「日本の原風景」伝承

 

 「『日本昔ばなし』がとっても好きで、『入れ歯になるまでやろうね』と2人で話していた」「見た目は近寄りがたいけれど、かわいい人でしたね。弟のような、夫のような。甘えるところは、ちょっとはにかんで甘えるし、一生懸命な時にはムキになるし」(報知新聞2018年7月20日)。所属事務所を通じた市原悦子さんの常田さんについてのコメントはこのようなものだった。

 それにしても場面、場面で声色を使い分け、親子で楽しめる「口伝えの世界」の伝承者として常田さんらはなぜこれほど長く支持をされたのだろうか。語りとも、子守歌にも聞こえる独特な「まんが日本昔ばなし」の口調、親から子に伝えていく機会が少なくなっただけに、受け継ぎたいと思う人々の気持ちが後押ししたように思える。

「坊や よい子だ ねんねしな~」。この曲とともに、常田さんの声が聞こえてくる気がするのは筆者だけではない。

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