エコ・エシカル・オーガニックは何を重視?~評価、社会的影響の違いとは~ サステナビリティ 新潮流に学ぶ 第19回

さまざまな表示ラベルが氾濫している昨今、その成り立ちや長所・短所に目配りする必要があります。代表例をいくつか取り上げて、違いに着目してみましょう。認証ラベルのルーツについては第16回コラムで少しふれましたが、海、森、農での現状はどうなっているのでしょうか。

海のエコラベルでは・・

最近発表されたSDGs達成度ランキングで、日本の順位は11位から15位に落ちました(SDGs達成度ランキング:日本は11位から15位に順位落とす)。

その理由はいくつかあるのですが、その一つに漁業資源の管理(目標14:海の豊かさを守る)への対応の甘さがあります。

近年、世界の漁業資源の枯渇が懸念されてており、マグロなどの水産物に関しては漁獲制限の動きが国際的に活発化しています。

MSC「海のエコラベル」のロゴマーク

それに関連して、持続可能な利用のための具体的な手法として「海のエコラベル」が普及してきました。

特に2020年オリンピック・パラリンピック開催に向けては、調達品の環境配慮が重視されており、水産物に関しても認証水産物「海のエコラベル」(MSC:Marine Stewardship Council:海洋管理協議会)が推奨されています。

マリン・エコラベル・ジャパン(MEL)のロゴマーク

この点に関して、どうも日本の対応が国際基準からズレているとの批判があります。日本では、国内的に「マリン・エコラベル・ジャパン」(MEL)の認証プログラムが大日本水産会によって運営されていました(2007年開始 現在はマリン・エコラベル・ジャパン協議会に運営を継承)。

しかし認証制度に関しては、利害関係をもつ業界からの独立、科学的情報(データ)に基づく計画的資源管理、客観的な評価・検証が基本とされており、日本の対応は業界に近い(審査の緩さや透明性に問題)と批判されているのです。

最近話題となったクロマグロの資源管理規制でも、大規模漁業(大中型巻き網漁)が優先されて零細沿岸漁業(一本釣り、はえ縄漁)がしわ寄せを受けているといった状況が問題視されました。

森のエコラベルでは・・

FSC認証のロゴマーク

認証ラベルの草分け的な存在としては、「森のエコラベル」として知られるFSC認証があります。

世界の森林の急速な減少に危機感を強めた20世紀末、森が適切に管理されて木材生産が行われる仕組みづくりとして、FSC(Forest Stewardship Council:森林管理協議会)が1993年に創設されました。

FSCは、環境管理や労働・人権(先住民・地域社会も含む)の尊重など10原則と70の基準を定め、「責任ある森林管理」がなされた森林の認証を促進してきました。認証内容としては、森林管理認証(FM)と加工・流通認証(CoC)があります。

近年の普及は目覚ましく、2012年ロンドン・オリンピックではオリンピック公園がFSCプロジェクト認証を受けるなど、国際的イベントで認証材の使用が普及しています。

世界でFSC認証された面積は85カ国で総森林面積の5%ほどになってきました(2018年7月)。ちなみに日本での普及はわずかで認証面積は約40万ha、国内森林面積の1.6%にすぎません。

緑の循環認証会議(SGEC)のロゴマーク

日本では、独自の認証制度として、「緑の循環認証会議(SGEC)」が2003年に発足しており、認証森林面積としては172万ha(2018年5月)ほどをカバーしています。

SGECは、FSCとは別のPEFC森林認証プログラム(欧州の林業団体が1999年設立し、各国制度を相互認証する国際団体として発展)に加わり、認証の国際化に取り組んでいます。

PEFC森林プログラムのロゴマーク

海のエコラベル(MSC)と国内認証(MEL:マリン・エコラベル・ジャパン)とのズレと似たようなことが、どうも森の認証システムでも起きているようです。

ここで重要なことは、管理基準や運営に対する考え方ではないでしょうか。少し踏み込むと、管理責任の厳格さに対する考え方、世界観の落差が奥底に隠れていそうです。

スチュワードシップって何?

ここで用語として使われるFSCやMSCの中にある言葉、スチュワードシップという用語に注目しましょう。

聞きなれない言葉ですが、最近では、お金の世界でも普及しだしたスチュワードシップ・コード(機関投資家の行動規範)がありますし、関連用語では飛行機でのスチュワーデス(キャビン・アテンダント)としても使われてきました。

英語のスチュワードとは、財産管理人・執事と訳されますが、その語源は「stig(囲い、舎)」と「weard(番人、管理)」からきているとされ、宗教(キリスト教)的な背景としては神が創り出した世界の委任管理を意味し、その責任を果たすことがスチュワードシップとして受けとめられています。

言わば絶対的な受託責任者としての役割、厳格さが求められているのです。

日本的には、管理責任とは周りの世界(世間体)を意識したレベルで考えられやすいのに対し、スチュワードシップとは絶対的で厳格な責任が求められる、その辺の落差がラベル表示においても現れているのではないでしょうか。

オーガニックをめぐる動向

認証をめぐる別の論点も生じてきました。日本で無農薬・有機栽培を認証する有機JASの表示制度がスタートしたのは1999年からです。当時、農薬被害や食品公害から安全志向が高まり、有機や無農薬を掲げた農産物が無規制に出回って混乱を招きました。

そこで、法律による有機生産基準に基づいて生産されたものを第三者機関が検査認証する仕組みとして、有機・オーガニックの表示制度(有機JAS)ができたのです。

この生産基準では、化学肥料や農薬の不使用、遺伝子組み換えの不使用などとともに、登録認定機関の検査認証を受けることが定められています。

不特定多数による大量取引が行われる市場では、商品の品質を保証する表示は重要です。しかし、審査に伴う書類作成や認証コストがかかることから、有機JASを取得する農家はある程度のビジネス規模が求められました。

なかなか小規模の家族経営農家にはハードルが高いこともあり、日本での有機JAS認定農家数はごく少数にとどまっています(国内の認定ほ場面積は約1万ha、割合は0.23%、2017年度)。

これに対して、海外における有機JAS認定のほ場面積は総計256万ha(田畑、樹園地、牧草地、その他を含む、同年)ですから、日本の有機の供給元は大半が海外に依存しています。

この様子は、オーガニックが栄えて、日本農家が衰退する事態と言ってもいいでしょう。有機・オーガニックは無農薬・無化学肥料という生産基準が主眼ですから、遠距離輸送(環境負荷)やローカルな地域性や生態系循環については評価外とされるので、エシカルな視点からみると疑問視される面があります。

そして有機認証とラベル表示で急成長してきたのがオーガニック・ビジネスです。当初は有機農家の普及・拡大に貢献したのですが、最近目立つのは巨大資本による吸収・淘汰が急速に進んでいることです。

その典型は米国で、地域の小規模業者が次々と巨大資本の傘下に組み込まれており、寡占化が急速に進みました。有機業界の大型スーパー(全米に450以上の販売店)として浮上したのがホールフーズ・マーケットでしたが、2017年8月にアマゾンに買収されました。

有機でグローバルな市場競争が徐々に激化しているのです。こうした状況に対し、生産者・消費者を守るはずの認証制度がビジネス偏重に傾き過ぎていることへの見直しが起きています。

有機認証の制度を推進してきた国際団体にIFOAM(国際有機農業運動連盟)がありますが、最近は小農民による地域での直接提携や消費者との密接な関係形成による参加型認証制度(PGS)を提起し、相互信頼に基づいた協約的な手法の重要性を強調しています。

有機の基準・認証において、市場化一辺倒の動きに対抗して社会的公正を重視する動きが提起されだした点は注目される動きと言ってよいでしょう。

© 株式会社博展