【F1ハンガリーGP無線レビュー】バーレーンGPを彷彿とさせる完璧な走りで6位に入賞したガスリー

 F1第12戦ハンガリーGPの予選で6番グリッドを獲得したトロロッソ・ホンダのピエール・ガスリーは、決勝のスタートでマックス・フェルスタッペンの先行を許したもののターン1から2で上手くカルロス・サインツJr.の前に出てそのまま6番手をキープしてレース序盤へと突入していった。 

F1ハンガリーGP決勝スタート

 背後につけたハースのケビン・マグヌッセンが脅威だったが、コース上での追い抜きが難しいこともありその後ろのサインツも含めて燃費セーブとタイヤを労る走りに入り、ガスリーは彼らとのギャップをじわじわと広げていった。

トロロッソ(以下、STR)「燃費とブレーキ温度のためにリフトオフを2秒してくれ。後ろのクルマたちも同じことをやっているよ」

 トロロッソ陣営も5周目にはリフト&コーストをしながら燃費を稼ぐ走り気に切り替えた。ブレーキへの負荷も軽減できるため一石二鳥だ。

STR「我々はまだプランAだ、タイヤをいたわってくれ」

 6周目にはレッドブルのマックス・フェルスタッペンがMGU-K(運動エネルギー回生システム)トラブルでマシンを止め、5位に浮上した。

STR「前でVER(フェルスタッペン)がトラブルだ、スローダウンしている。VSC(バーチャルセーフティカー)だ、ステイアウト。チャージオン、モード6。燃料をセーブしろ」

 レースが再開されてもガスリーはマグヌッセンを寄せ付けず、むしろ引き離していった。

STR「後ろのクルマよりも速いからリフトオフとタイヤをいたわることだけに集中しろ。MAG(マグヌッセン)は5秒後方。君は彼より速いペースだよ」

 トロロッソとホンダはペースにまだ余裕があると見たのか、13周目にはリフト&コースト(燃料をセーブするためアクセルをオフにして惰性で走ること)をさらに多くするよう指示を出す。それでもマグヌッセンとのギャップは広がっていった。

STR「リフトオフをあと1秒長くしてくれ。今2秒だけど、3秒必要だ」

 16周目、レースエンジニアのマティア・スピニはガスリーにドリンクを飲むのを忘れないよう伝える。ドライビングに集中して忘れてしまわないよう、事前にガスリーから依頼されていたメッセージだ。

■後方のケビン・マグヌッセンとの差をコントロールするピエールガスリー

STR「ドリンクのリマインダー(注意喚起)だ。タイヤスイッチの操作(によるタイヤ状況の伝達)も忘れるな」

 25周を過ぎて気付けばマグヌッセンとのギャップは10秒まで広がり、縮まる気配はなかった。ガスリーはシートがガタついていることを無線で伝えてきたが、

STR「君は良い仕事をしているよ。このままの走りを続けてくれ。MAGは10秒後方だ」

ガスリー(以下、GAS)「シートがクルマの中で少し動き回っている!」

STR「了解。今のところ君は良い仕事をしているよ」

GAS「タイヤに苦しみ始めているよ」

 当初の予定よりもウルトラソフトの保ちが良く第1スティントを長く引っ張ったトロロッソ陣営だったが、タイヤの性能低下は始まっていた。そんな矢先の31周目にマグヌッセンがピットインしたため、翌32周目にカバーすることを即決してガスリーをピットに呼び入れた。

 トロロッソはこの日の全車中で3番目に速い2.27秒のピットストップ作業でガスリーをコースに送り出し、ポジションをキープ。あとはマグヌッセンに対してこの位置を守って最後まで走り切るだけだった。

STR「タイヤと燃料をマネージしろ。そうすれば君はセーフだ」

 ここからはチームからの無線は最小限に留め、厳しい暑さと戦いながらペースを維持するガスリーの集中力を切らさないよう配慮する。50周目にマクラーレンのストフェル・バンドーンがストップしてVSCが出動したが、ガスリーの履いたソフトタイヤはまだまだ高いグリップレベルを保っていた。

STR「VSCだ。デルタをポジティブにキープ。燃料をセーブする必要がある。タイヤはどう?」

GAS「すごく良いよ!」

 しかし55周目を過ぎたあたりからマグヌッセンがペースを上げてきた。タイヤマネージメントと燃費マネージメントの不安がなくなったところでレース終盤に向けてプッシュを開始したのだ。一時は12秒まで開いていたギャップはじわじわと縮まっていき、チームからは毎ラップのようにガスリーに対して最新の状況が伝えられる。

STR「MAGは21.9。我々より0.2秒速かった。ペースを上げてくれ」

STR「MAGがさらに1秒縮めて来たぞ」

STR「MAGが6秒後方まで来た。この周のMAGは0.3秒速かった」

 しかし残り10周を切ったところで、ガスリーもこれに対抗して再びマグヌッセンを引き離しに掛かる。ガスリーの状況を見てマグヌッセンはプッシュを諦めたようだった。元々リヤタイヤに厳しいドライビングだけに、これ以上の深追いは辞めて7位を確保しておくのが得策と考えたのだろう。

STR「残り5周。MAGとのギャップは安定してきた」

STR「モード4、プッシュだピエール。もう燃料セーブは必要ない」

 最後はマグヌッセンを13秒も引き離して6位でチェッカー。走りも戦略も、全く危なげのない完璧なレースだった。モード変更やプッシュの指示、ライバルとのギャップなど、極めて忙しく交信をし続けていたブレンドン・ハートリーとは対照的に、ほとんど無線でやりとりを交わすことなく走り切ったことがその証だ。

 チェッカーを受けたガスリーは喜びを爆発させた。

STR「OK、ピエール。P6、P6だ。良くやった」

GAS「やったよ、みんな! すごくハッピーだ、超ハッピーだよ! 僕らはこの入賞に値するよ! イエェェェス!! 」

STR「最高だったよ、美しいレースだった。ブレーキを冷やしながらいつも通り燃料をセーブして戻ってきてくれ。FIAブリッジに止まったら通常の手順でP1、P0、マスタースイッチオフ」

 4位入賞の第2戦バーレーンを彷彿とさせるような、中団グループのトップに立ちライバルたちを寄せ付けない美しいレース。シーズン後半戦にもこのようなレースを再現することができるかどうかは、このハンガリーGPの好走の理由をしっかりと分析し理解を進められるかどうかに掛かっているはずだ。

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