仮想通貨を地方創生の財源に 岡山・西粟倉村のいま

西粟倉村

岡山・西粟倉村は、持続可能な地域づくりを推進するため、全国の自治体として初めて仮想通貨を発行して資金を調達する「ICO(イニシャル・コイン・オファリング)」の実施に着手した。同村は、起業家を養成する独自の移住政策を行うなどして地方創生を先駆けてきたことでも知られる。今年6月に発表した「地方創生ICO」の現状について話を聞いた。(サステナブル・ブランド ジャパン=橘 亜咲)

岡山県北東部に位置する西粟倉村は、森林の面積が95%を占める人口1466人の村だ。「平成の大合併」では合併しない道を選んだ。自立した地域づくりを進めるため、同村は2008年、資産である森林を活用した地域経済の活性化を目指し「百年の森林(もり)構想」を立ち上げた。

同構想は、戦後、村人が植えた樹齢約50年のスギやヒノキの人工林を手入れし、間伐した木材に付加価値をつけて流通させるなど健全な林業経営を通して100年の森に育て未来の世代に残していくことを目指すもの。一口5万円から参加できる「共有の森ファンド」を通し、全国から資金を調達した。この取り組みをきっかけにして、木材を加工してものづくりを行う若い世代の移住が始まり、さらに「ローカルベンチャースクール」を開校するなど移住起業支援も進めてきた。

現在では人口の10%がIターンの移住者。子育て世代が増え、約200人いる中学生以下の子どもの人口の20%は移住者の子どもだ。初期の移住者は林業や木工業を生業としていたが、徐々に食用油の製造・販売を行う人や帽子作家、ウェブデザイナー、モンテッソーリ教育の塾を行う人などさまざまな事業を行う人たちが集まり、2004年から2018年までに新たに34社が誕生した。

西粟倉村役場 産業観光課の萩原勇一課長補佐は、「多様な人が地域にいることが大事。行ってみたい、住んでみたいと思える地域であるために努めてきた」と語る。

今までと同じことをやっていてはいけない

「地方創生ICO」による資金調達を行う背景には、小規模の自治体として、先行投資をし地域づくりを行っていくために必要となる自主財源の調達手段を増やしたい考えがある。実際に運営や資金調達を行うのは、昨年9月に「地方創生ICO」を西粟倉村に提案したエーゼロ(西粟倉村)を含むいくつかの民間事業体から成る「一般社団法人 西粟倉村トークンエコノミー協会」だ。

具体的には、同協会がNishi Awakura Coin(NAC)を発行。NAC 保有者には投票権が与えられ、将来性のある事業を考案する西粟倉村のローカルベンンチャーに投票することができる。NAC 保有者はローカルべンチャーを応援すると同時に地域づくりに参加することができ、それによって仮想通貨がつくる経済圏「トークンエコノミー」を循環させていくという。ICOによる資金調達は、世界的には米カリフォルニア州バークレー市や韓国・ソウル市も準備に着手している。

6月13日に発表された「地方創生ICO」だが、いつから実施されるかなど具体的な時期は、国の改正資金決済法や自主規制ルールが制定されるまでは決まらない。西粟倉村は、地方創生推進交付金の交付が終了する2020年度までに整備したい考えだ。

萩原課長補佐は、「持続可能な地域づくりを探求すると、今までと同じことをやっていてはいけない。『地方創生ICO』はふるさと納税などと同じ財源調達の一つの手段。NACの価値が上がることと地域の魅力や価値が上がることは比例する。今は法整備を待っている状況。今回の取り組みを通して、他の自治体も実施できる事例をつくりたい」と話した。

ローカルベンチャー育成事業などを行うエーゼロ代表で、同村の発展の一役を担ってきた牧大介代表は「ICOについては議論を深めて準備を進めることを優先している」とし、具体的な回答は控えた。

地方創生は日本全体の課題。今後、国内の人口減少が進むなかで、小規模の自治体はどのような将来像を持ち、そのためにどのような具体的な施策を実施できるかによって存続が左右されてくるだろう。ICOは地方創生の新たな戦略になりうるのかーー。これまでも新たな地方創生のあり方を示してきた岡山・西粟倉村の動向に注目が集まる。

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