姉と弟の愛憎劇 KAATキッズ・プログラム新作「グレーテルとヘンゼル」

 著名なグリム童話「ヘンゼルとグレーテル」に似ているようで、ちょっと違う。そんな舞台劇「グレーテルとヘンゼル」(スザンヌ・ルボー脚本)が18~26日、KAAT神奈川芸術劇場で上演される。憎しみと愛情で結ばれる姉と弟の物語。余分な装飾をそぎ落とした簡素な舞台空間で、若手俳優二人が幼いきょうだいの揺れ動く内面を表現する。

 「どうしてみんないつも『ヘンゼルとグレーテル』って言うのかな。『グレーテルとヘンゼル』じゃなくて」

 グレーテルが「ろうそく1本吹き消したばかりだった」1歳1カ月の頃、弟のヘンゼルが生まれる。ミルクも、時間も、ベッドの中のママとパパの間の温かなスペースも、「弟は『全部』奪っていった」。姉は、弟が憎らしい-。

 今年のKAATキッズ・プログラムの新作として上演する本作は、1975年設立のカナダ・モントリオールの劇団ル・カルーセルの代表作でもある。脚本は作家の実話にも基づく。これまでフランス語、英語、スペイン語で披露されてきたが、今回、KAATとの共同で日本語版の製作が実現した。

 演出はル・カルーセルの芸術監督ジェルベ・ゴドロ。グレーテル役には映画や舞台などで活躍する土居志央梨(26)、ヘンゼル役には俳優小日向文世の長男で自身も3年前から本格的に芝居に取り組む小日向星一(23)がオーディションで選ばれた。

 装置は至ってシンプルだ。舞台上にあるのは15脚の木製の椅子。これだけで、弟の誕生の瞬間や夜の森、かまどや魔女が住むお菓子の家を表現する。「全てを描いてみせるような作品ではない。見る者の想像力を喚起させる舞台なんです」と、ゴドロは強調する。

 「子どもだましではない、とっても正直な人間同士の関係を描いている。自分の人間力が試されるし、役者として挑戦しがいがあります」と目を輝かせる土居は、自身も三つ下の弟がいる。ヘンゼルに激しい憎悪を抱くグレーテルに「親をとられて不安になる感覚など、よく分かりますね」と、共感もできる。

 「自分の感情に根差してせりふを発すること」。土居と小日向へのゴドロの指導は明快だ。4歳児のヘンゼルに合わせ子どもらしく話そうと意識していた小日向は「ジェルベさんに『説明的にしなくても見ている人は分かってくれる』と言われた。それが僕の中で新鮮でした」。押しつけがましい演技をしないよう心掛けているという。

 ゴドロの二人への期待は大きい。「演出家の駄目出しをきちんと動きに『翻訳』する能力がなければ何も生まれない。二人はちゃんと内面の演技ができる。私が離日した後、この作品を日本で生かし続けるのは俳優たちです」

 怒り、喜び、驚き、戸惑い。子どもたちは大人と同じくらい、深い感情を理解できると、子どもの感受性を信頼するゴドロ。「演劇は一つの経験になる。日本の子どもたちにも、ライブで俳優に接する唯一無二の機会を堪能してほしい」と話している。

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 12回公演。22日休演。対象は4歳以上。上演時間やチケット料金の問い合わせはチケットかながわ電話(0570)015415。

土居志央梨(左)と小日向星一(右)と稽古を進めるジェルベ・ゴドロ。「お互い喜びを持って仕事ができている」と話す。舞台上には、子ども用の背の高い椅子のみが置かれる=横浜市中区のKAAT

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