混戦の2018年ペナントレース、前半戦を「得失点の波」で解析【セ編】

広島・緒方監督【写真:荒川祐史】

セ球団に絶対の自信持つ広島 巨人はブルペンに課題

 統計学では、時系列データを「移動平均」という指標で平滑化することがあります。そこで、今年のセ・リーグペナントレース前半戦における各チームの得点と失点の移動平均を測っていわゆる「調子の波」を可視化してみます。

 まず移動平均を説明します。移動平均は大きく変動する時系列データについて、その大まかな傾向を読み取るための統計指標です。株価の大まかな変動を捉え、売買のタイミングを計る際によく使用されます。

 この移動平均を使って、各チームがペナントレース前半戦のどこでどのような波に乗れたかを検証してみます。

 以下のグラフでは7試合移動平均において「得点>失点の期間はレッドゾーン」「失点>得点の期間はブルーゾーン」として表しています。

 なお、グラフの縦線は、

 3、4月|5月|交流戦|交流戦後

 を表しています。

 今回はセ・リーグ6球団を、8月2日時点での成績順で紹介します。

カープの得失点推移グラフ【図表:鳥越規央】

◯広島東洋カープ

 交流戦の期間を除けばほぼ厚いレッドゾーンとなっている今季の広島の戦いぶり。それもそのはず、同一リーグ間のみの戦績では

1位広島   46勝25敗 勝率.648
2位ヤクルト 36勝36敗 勝率.500 ゲーム差10.5
3位DeNA   35勝38敗 勝率.479 ゲーム差1.5

 と、ここでもセ・リーグの貯金を独り占めです。対戦成績をみると、中日のみ7勝8敗と負け越している以外は、巨人から8、ヤクルトから7、阪神からは6の勝ち越しを稼いでいます。セ・リーグの球団には絶対的な自信を持って戦っている様子が伺えます。

 チームOPS0.787、交流戦後はさらにブーストがかかりチームOPS0.864と跳ね上がっています。今年も53勝のうち26勝が逆転勝ちと「逆転の広島」も健在です。

 怪我による大きな戦力ダウンがなければこのまま3連覇の可能性が高いことを示すグラフとなっています。

ジャイアンツの得失点推移グラフ【図表:鳥越規央】

◯読売ジャイアンツ

 今季のジャイアンツもヤクルト同様、好不調の波が大きく変動しているチームとなっています。開幕直後6連敗したかと思えば、4月下旬に怒涛の8連勝。8連勝中は2ケタ得点が4試合あり、特に4月25日の中日戦では20-4の大勝。その痕跡が大きなレッドゾーンに表れています。

 その後も交流戦前後に5連敗が1回ずつ、交流戦後7連勝したかと思えばすぐに6連敗と首位広島に追随するには今ひとつ飛び出しきれない状況になっています。

 またOPS0.933の1番打者として、チームの攻撃力を牽引していた坂本勇人が左脇腹肉離れのため7月17日より欠場、その影響がグラフ終盤のブルーゾーンに表れています。

 なお今季の巨人の1点差ゲームは8勝18敗と接戦に弱い一面をみせています。先発投手の完投は14と群を抜いてリーグトップなのですが、これはほぼ菅野智之(5回)とノーヒッター山口俊(6回)の2人によるもの。裏を返せば救援陣の心許なさを示す指標でもあります。

 上位打線の再構築と、救援投手陣の立て直しがクライマックス進出のカギとなるでしょう。

スワローズの得失点推移グラフ【図表:鳥越規央】

ヤクルトは先発に課題、投打かみ合わない中日

◯東京ヤクルトスワローズ

 交流戦前まではほとんどブルーゾーンと絶不調ぶりが顕著で、6連敗2回、5連敗1回と前年に引き続き、他の5チームと引き離され大きく沈むかに見えたスワローズ。しかし交流戦に入り、投手陣が防御率3.38、QS率55.6%と覚醒。序盤で7連勝すると、セ・リーグでは唯一気を吐き、パ・リーグ相手に12勝6敗で、交流戦勝率1位を獲得しました。

 その後リーグ戦再開後は、5連勝、8連敗、7連勝と大きな連勝連敗を繰り返すまさに大波を引き起こす戦いぶりです。

 打線は、史上初3度目のトリプルスリーを目指す山田哲人を筆頭に、青木宣親、坂口智隆、バレンティン、雄平、西浦直亨と優秀な打者が多く、上位に好調な打者を配置することで得点力の増強を図れる攻撃力を持ち合わせています。

 連勝中は先発がしっかりQSを稼いでいるところからも、やはり安定した勝利のためには先発投手陣がしっかり役目を果たせるかどうかにかかっていることでしょう。

ドラゴンズの得失点推移グラフ【図表:鳥越規央】

◯中日ドラゴンズ

 ブルーゾーンの比率が多く、連勝も4月上旬の4連勝が最高で、大きな波に乗り切れない現状を表すグラフとなっています。防御率4.38、WHIP1.39、FIP4.46はリーグ最下位で、開幕前から不安視されていた投手力の整備がいまだにできていません。

 ただ、ガルシアを中心に、小笠原、山井、吉見ら先発投手陣はQS率60%を超えており、しっかり先発投手としての役割を果たしています。また、平田、ビシエド、アルモンテと打線の主軸もOPS0.8以上と結果は残しています。

 このようにタレントは揃っているのですが、例年投打がかみ合わず、グラフも細い線のような帯状。僅差で星を落としている様子が伺えます。

 8月以降の浮上のカギは、

1番 出塁率.306 OPS 0.648
2番 出塁率.294 OPS 0.656

と得点力不足の要因となっている1、2番の出塁率の極端な低さの改善。そして救援投手陣の再構築でしょうか。

ベイスターズの得失点推移グラフ【図表:鳥越規央】

大量失点多いDeNA、打線の得点力に改善ない阪神

◯横浜DeNAベイスターズ

 4月上旬に8連勝し、昨年日本シリーズに進出した勢いが持続していよいよリーグ制覇もあるかと思われたスタートダッシュでしたが、その後は波に乗り切れず一進一退を繰り返しながら後退するといった状況のペナントレースとなっています。

 そして特筆すべきは交流戦以降ずっとブルーゾーンが続いていること。交流戦ではパ・リーグ相手に5連敗を含む10敗を喫し大きく負け越し。そして交流戦後は防御率5点台と投手陣が波に乗り切れてない状況となっています。

 しかしながら、交流戦後の戦績は13勝18敗と負け越しは5つ。そこまで真っ青な星勘定というわけではないのです。このブルーゾーンが続いている要因は、大量失点による敗戦の試合が目立つということ。交流戦以降2ケタ失点はなんと6試合。

6/27 阪神6-16
7/1 広島1-15
7/10 中日8-13
7/22 阪神7-11
7/23 中日4-11
7/27 広島1-10

 その一方で勝つときは僅差での勝利が多いため、平均失点が平均得点を上回る時期が多くなるという現象が起きているのです。

 筒香、ロペス、宮崎の攻撃力を活かすべく、2番にソトを配置したり、そしてオリックスより移籍の伊藤光によるキャッチャーの攻撃力向上を図ったりして、チームの得点力を向上しようとする姿勢をみせています。

タイガースの得失点推移グラフ【図表:鳥越規央】

◯阪神タイガース

 全体的にブルーゾーンが多くを占めている状況です。防御率3.99はリーグ2位、FIP3.66、被本塁打68はリーグ最少で、相変わらず投手力に定評はあるのですが、平均失点が4.45でリーグ3位なのは、やはり守備力に難がある証拠。グラウンドに飛んだ打球をアウトにする割合であるDER0.674は12球団最低。また本塁打52、チームOPS0.676はリーグ最低と、長年の課題とされている得点力の改善は今季前半でも見受けられませんでした。

 本来、セイバーメトリクスで打線の核と位置付けられている1、2、4番のOPSが全て0.7以下というのも、全体の得点力低下に大きな影響を与えているものと思われます。6月に月間OPS1.098を記録した陽川尚将が4番に座り、主軸として期待されましたが、7月に入りOPS0.468と大ブレーキ。代わって7月に再登録されたロサリオが月間OPS0.972で前半の遅れを取り戻しつつありますが、ただ7月の得点圏打率が0.083とチャンスに打てず。結局、福留、糸井頼みの打線であることには変わりがないようです。

 8月はドーム球場での試合が15と多く、「死のロード」と言われた頃に比べれば恵まれた環境での試合ができるということで、ベテランの多いチームにとってはこれを浮上のきっかけにし、雨天中止となった代替試合による連戦が予想される9月への布石を置いて欲しいところです。(鳥越規央 / Norio Torigoe)

鳥越規央 プロフィール
統計学者/江戸川大学客員教授
「セイバーメトリクス」(※野球等において、選手データを統計学的見地から客観的に分析し、評価や戦略を立てる際に活用する分析方法)の日本での第一人者。野球の他にも、サッカー、ゴルフなどスポーツ統計学全般の研究を行なっている。また、統計学をベースに、テレビ番組の監修や、「AKB48選抜じゃんけん大会」の組み合わせ(2012年、2013年)などエンターテインメント業界でも活躍。JAPAN MENSAの会員。一般社団法人日本セイバーメトリクス協会会長。
文化放送「ライオンズナイター(Lプロ)」出演
千葉ロッテマリーンズ「データで楽しむ野球観戦」イベント開催中
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