【〝8月3日は「建築板金の日」〟】〈匠の技と施工技術、機能美を織りなす〉「被覆装飾」起点、「金属圧延の進歩」で領域拡大

 8月3日は「建築板金の日」。今年の春に制定され、きょうは記念すべき最初の日に当たる。

 「建築板金」――耳にしたことがある人は多いだろうが、そもそもどういったものなのだろうか。

 起源には諸説あるようだが、いくつかの文献をひも解くと、錺(かざり)が有力な源流の一つとされる。錺は建造物に使う金具で、装飾と補強材の役割をもつ。法隆寺(奈良県)の金堂をはじめ、伝統建築物の被覆装飾として長らくその機能を果たしてきた一方、その後板金は銅板瓦を主体に適用範囲が屋根に拡大。金属圧延の進歩や欧米建築の技術導入を契機に、板金の対象領域が急速に拡大した。自然災害が頻発する日本ならではの立地条件も相まって、軽量さや経済性、施工性といった特性が市場への浸透を後押ししたとの見方もある。

 建築板金の特色は、(1)金属板の塑性加工(2)建築外装施工における雨仕舞い(3)美観・景観づくりの能力―と3つの高度な専門性から成り立つ。各地の建築板金業者で構成する全日本板金工業組合連合会(全板連)によると、「建築板金」は、同じ板金業の「工場板金」と大別できるという。厚い金属板で自動車や飛行機のボデーをはじめ、工場内で生産が完了する板金業を「工場板金」と総称するのに対し、「建築板金」は、薄い金属板を切断したり折ったり、貼り合わせたりするなどの加工を施した製品を造り、建築物の所定の位置に取り付ける工事までを手掛ける業態を広く指すそうだ。

 それでは「建築板金」が生み出す製品にはどのようなものがあるのだろうか。屋根や外壁(サイディング)、雨樋(とい)、厨房用金物、ダクト、天蓋、排気筒…代表的な事例を挙げた限りにおいても、どれも日常生活に馴染みがあるものばかりだ。

 業種としての建築板金も幅広い。総務省の日本標準産業分類によると、建築板金に深く関わる板金・金物工事業は、主に亜鉛鉄板や銅板、アルミニウム板などを使い、折板や瓦棒、波形平板葺きなどの工法を手掛ける金属製屋根工事業、樋(とい)や水切り、雨押、スカイライト、ブリキ煙突などの板金工事業、面格子、装飾金物、メタルラスなどの建築金物工事業の3種に分類できる。その一つ一つが住空間やインフラ整備の一翼を担う。

 素材は当初の銅板から鉛板、錫めっき鋼板、亜鉛めっき鋼板、さらにはカラー鋼板と広がり、今日に至っている。こと屋根材を例に挙げると、切板から長尺材、平板から立体加工材、波板から折板に推移する。新たな材料や工法が出現するのとともに、板金職人が蓄積するノウハウが連綿と後進に受け継がれる。

 現在は全国で4万8千人程度が従事しているとみられ、その大半は独立系で中小規模の企業が占める。若手から中堅、熟練までの一人一人が慣れ親しんだ地域に密着し、伝統を守りつつ、風土や気候に沿った素材を厳選して板金工事に当たる。匠の技と現代建築の施工技術が機能美を織りなす。

 業界でも研鑽を積む場を設ける。今年2月に日本建築板金協会と全日本板金工業組合連合会が開催した全国建築板金競技大会は40回の節目を迎えた。来年2月には歴代優勝者が集って腕を競い合う。

 次代の担い手たちは、日々の業務と並行して社会貢献活動にも目を向ける。2002年に京都府板金工業組合の青年部が広島の平和記念公園に献納した、燃えない銅板製折り鶴はその一例。金属ならではの性質を見極めた、精緻な工芸品や彫刻が彩りを添える。

石本惣治全板連・日板協理事長/建築板金の「すべて」に感謝する日に

 「建築板金の日」は、今年4月に開催した全日本板金工業組合連合会(全板連)と日本建築板金協会(日板協)の青年部会総会(全国青年部部長会議)で、出席者から制定に向けた提案があり、その後の日板協と全板連の合同理事会で決定した。私たちの次の世代を担う若者たちからこのような声が上がり、きょう記念すべき最初の日を迎えられたことは実に意義があり、心から誇りに思う。

 8月3日は、板金職人が使う小道具の中でも最も縁がある「(板金)ハサミ」の語呂にちなんで選ばれた。すべての職人が日々仕事をする上で一番使う小道具といっても過言ではない。理美容や服飾などハサミを使う職種はたくさんあるが、中でも板金職人のハサミは「チョキン・チョキン(貯金・貯金)」と鳴り、手入れが行き届いてなければ「シャッキン・シャッキン(借金・借金)」と音を立てるものだ。

 これからも一人一人がいい音で板金ハサミを使っていける業界にしていくためにも、8月3日は、自分たちが使っている道具や工場の設備をはじめ、建築板金に関わるすべてに感謝する日にしたい。またこの日を大切にし、各地の板金工業組合などを中心にあらゆる機会をとらえ、広く社会に建築板金業を広めていきたい。

「建築板金の日」制定の経緯と展望/全板連・日板協村田豊青年部部長に聞く/青年部部長会議の提案がきっかけ/業界の団結と認知度向上へ

 「建築板金の日」の制定をめぐっては、全日本板金工業組合連合会(全板連)と日本建築板金協会(日板協)の青年部が4月に開催した全国青年部部長会議での提案がきっかけとなった。青年部の村田豊部長に経緯や展望を聞いた。(中野 裕介)

――4月20日の全国青年部部長会議では、どのような流れで「『建築板金の日』の制定」の提案に至ったのか。

 「何らかの記念日があれば、業界がさらに一致団結できる機会になるのではないかという話は以前から出ていた。記念日には全国の板金組合や板金施工会社がイベントや取り組みを企画・立案し、それらの中でこれまで考えもしなかったようないいものが生まれるかもしれない」

 「広く世間で建築板金を知っていただくPRの場になるとともに、板金職人一人ひとりが自分の仕事を省みる機会にもつながる。そうした中、部長会議で話し合うテーマを決めるため、あらかじめ各都道府県の青年部部長に実施するアンケートで『板金の日があるとしたら、いつがいいか』との質問を盛り込んだ」

――提案から6日後の4月26日には、上部団体である全板連と日板協の合同理事会で決定した。

 「全国から青年部のトップが集まる中で意見集約できた意義は大きい。全国青年部部長会議当日には、上部団体の石本惣治理事長が同席しており、今回の提案について相談したところ、『積極的に広めていこう』と背中を押していただいた。青年部に対する上部団体の理解は本当に心強い」

 「昨年から私が青年部の部長になって2年目になるが、就任時から『チャレンジ』をスローガンに掲げている。さまざまな観点で青年部から積極的に情報発信し、フットワーク軽くやっていきたいという思いの中にあって、今回の記念日の制定はその大きな一歩であり、今後につながる象徴的な事例の一つだろう」

――なぜ8月3日を選択したのか。

 「われわれ建築板金業にとって、板金ハサミは仕事をする上で欠かせない道具。『ハサミをつかむ』動作にちなんだ『2月3日』をはじめ、さまざまな候補日があったが、最終的にはハサミの語呂において最も直接的な『8(ハ)月3(ミ)日』で意見がまとまった。具体的な取り組みについては各都道府県の組合に判断を任せているが、節目の日の当日にどのような対応を取るのか、あるいは取ったのかの情報収集し、全員で共有できるものは共有し、横展開できるものは別途協議していくといった流れになるだろう」

 「一例を挙げれば、板金ハサミを磨いて、研ぐ講習会の開催を計画したり、使わなくなった板金ハサミに感謝を込めて供養したり、あるいは一定の地域の関係者が一堂に会するなど、節目の過ごし方はさまざまだ。今後はどのようにして板金業界を盛り上げていくのかという共通の課題に向けて、2年目、3年目と、歳月を重ねながらより良いかたちで記念日を迎えていきたい」

記念日の由来「板金ハサミ」/職人象徴する商売道具

 記念日の由来となった、建築板金の職人を象徴する商売道具「板金鋏(ハサミ)」。別名「金切りハサミ」、古くからは「切り箸」とも言われ、使用頻度が最も多い工具の一つに挙げられる。欧州がルーツとされ、明治時代の初期に刀鍛冶が現在の直刃の原型を作ったのが始まりとの説もある。

 鍛冶具としての「波左美」との記述や、7~8世紀ごろに大陸から渡ってきた鍛冶工が伝えた板金ハサミが日本で最初のものだったとの文献もあるようだ。

 鋏本体を構成する素材は極軟鋼やステンレス鋼。ハガネ材と高熱で赤めて一体にし、刃の切れ味を決める。製造の在り方は1丁ずつ手加工で作り上げたり、機械と分業で量産したりとメーカーによって異なる。材料の切断から火造り、焼き入れ、焼き戻し、研磨・刃付け、カシメ作業など工程数は70を超えるという。

 ハサミの部位や形状はメーカーによって名称も様々。肩や腕、しっぽなど生き物にちなんだ呼び方や、細身で刃が長いその特徴から「サンマ」と言い表す商品もある。道具ゆえに、板金職人の思い入れもひとしおだ。

 先代から譲り受けたり、長年愛着をもって使い続けたものの、刃が欠けてしまったりといった鋏が、全国各地から鋏メーカーに集まる。それらは刃を砥いだり、部品を交換したりするなどして組み直し、再び所有者の手元に戻る。鍛冶・鋏の職人から板金職人へ。ものづくりに寄せる匠の息吹がハサミに伝う。

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