震災の夏の合言葉

 猛暑の中、数年前まで頻繁に聞いていたのに、今年はそれほどでもない言葉がある。「節電」だ▲東日本大震災後に全国の原発がストップ。電力需給が逼迫(ひっぱく)し、「節電」が世の合言葉になったのはもう7年も前のこと。エアコンを使う夏季の需要期に合わせた国の節電要請は2015年まで続いた▲だが、経済産業省の資料によると、今年の夏は「10年に1回程度の猛暑」になると想定してもなお、ゆとりがあるようだ。各地に増えたメガソーラーや原発の再稼働の結果らしい▲今年節電を意識する場面が少ないのは、高温下で熱中症の危険性が高まることが知れ渡り、その予防にエアコンの使用が推奨されているせいでもあるだろう。特に室内での発症例が多い高齢者は、室温を適切に管理して過ごすことが求められている▲学校の教室にエアコンを設置してほしいという声も出るようになった。暑さや寒さを体で感じながら適応力を鍛えるという昔ながらの考えだけでは、近年の猛暑を乗り切っていけなくなっているのだろうか▲もちろん、体調を守ることが最優先だ。その一方、電力需給にゆとりがあるからといって、震災の夏の合言葉を忘れてはならないとも思う。熱気のこもる部屋に帰宅し、反射的にエアコンのスイッチを押そうとして、設定温度を確かめる。(泉)

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