金属行人(8月6日付)

 「羊と鋼の森」の本を読んだり、映画を観たりした読者も多いだろう。これはピアノ調律師の世界を繊細に描いたストーリー。羊とは、ピアノに埋め込まれているハンマーが羊の毛でつくられていることを示す。鋼はピアノ線。ピアノは、鍵盤を押すと、その奥にあるハンマーが下から弦(ピアノ線)を打つことで音が出る仕組み。いい羊、いい鋼が良い音を出すための肝になる。羊と鉄の組み合わせが音をつくりだしていると考えると、ピアノの演奏を聴いていても今までとは違った楽しみ方ができる▼先日、新日鉄住金音楽賞で聴いたハープの演奏でも、鉄が音を奏でる役割を果たしていることを知った。演奏者いわく「ハープの弦はナイロン弦、テニスラケットのガット弦(羊腸からつくる)、スチール弦の3種類を使っています」と。スチール弦は、ナイロン弦やガット弦とは違い、澄んだ音色が特徴という。今年が28回目の同音楽賞でハープ演奏家の受賞は初めて▼夏休みは家族と共に出かける読者も多いと思う。出先で音楽に触れながら、鉄の話をするのもいいかもしれない。小中高生向けの金属関連イベントが多数行われているが、音楽を通じて金属を知り、興味・関心を持ってもらうのも良いと思う。

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