川崎の定時制野球部つかんだ全国の切符 同好会から奮闘

 夜のとばりが下りる中、泥だらけになって白球を追い掛けてきた。川崎市立橘高校定時制(中原区)の軟式野球部が、15日に開幕する全国高校定時制通信制大会に初出場する。2014年に同好会から再スタートを切ったチームがつかんだ夢切符。目標に向かう過程と積み重ねを大切に、定時制通信制の「甲子園」とされる舞台でも、はつらつとしたプレーで挑む。 

 ナイター照明が球児たちを照らす。「声出せば取れるぞ」「バッター、向かってこい」-。練習に励む選手たちの気合を込めた声が響く。同校教諭の中島克己監督(50)の姿もその輪の中にある。

 中島監督は14年春に市立高津高(高津区)から橘高に異動。学校側の事情で1996年を最後に活動を停止していた野球部の再興に奔走した。初年度の県大会で決勝に進出。周囲を驚かせる快進撃をみせた。それでもここ3年は4強止まりで、中島監督と部員14人にとって、頂点奪取は悲願だった。

 今年6月の県大会決勝。県立厚木清南高に終盤まで5点のリードを奪われていたが、決して諦めない。七回に4点を返すと、最終回にまず同点に追い付き、最後は大羽空選手(18)=4年=のサヨナラタイムリーで歓喜の時は訪れた。高校から野球を始めた大羽選手は「やめようと思ったこともあったが、後輩たちに支えられた。野球をやっていてよかった」と笑った。

 部員の大半はアルバイト後に夕方から授業に出席。その後、午後10時まで部活動に励む日々を送る。部員全員がそろうことはほとんどない。だからこそ、中島監督は平日に休養日を設けない。「それぞれのスケジュールがあり、人と接するのが苦手な生徒も多い。野球部という居場所があれば、自然と会話が生まれ、登校する理由にもなる」。昨秋からは県大会制覇に向け、例年の3倍近い30試合の対外試合を組んで実戦感覚を養ってきた。

 マネジャーから選手となった唯一の女子部員、高杉美羽さん(18)=4年=は「疲れるけど、これが日常になった。みんな笑顔で野球に取り組み、いいですよね」と話す。キャプテンの野村昇吾さん(23)=3年=は「野球をこんなに好きになったのは初めて。人との接し方や言葉遣いなども勉強させてもらった」と、自身を含め部員の成長ぶりを実感する。

 チームスローガンは「一戦必笑、完全燃笑」。中島監督は言う。「ちょっと駄目だとすぐに諦めて、投げ出してしまう子どもが多い。野球はとにかく楽しまないと。ミスしても沈まず、いつも笑顔でいよう、と」。特別な夏も、心から楽しむ普段着野球を貫く。

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 全国大会の開会式は15日に明治神宮野球場で開催。橘高校の初戦は同日午後2時から江戸川区球場(東京)で、クラーク記念国際高・広島と対戦する。

全国大会に初出場する橘高校定時制の野球部

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