[CSRブランディング最前線] 第28回:もっと早く知りたかった!「ブランドの世界」

「ブランド」って何ですか?こんなシンプルな質問をよく受けます。経営者や実務家の多くは、ブランドについて何かふわっとして腑に落ちないもの感じているようです。今回は、ブランドの深淵なる魅惑の世界の扉を開けてみましょう。現代のブランド論は、大学や病院にもうまく応用できます。

「ブランド」と言えば?

私の定番講座「CSRブランディング研修」では、前半を「先進のCSR」、後半を「ブランド入門」といった構成でレクチャーしています。事前アンケートでは、研修への参加動機とともに、「CSR」と「ブランド」についてご自身の習熟度を申告していただいています。

10段階評価ですが、CSR担当の方は、「ブランド」については2~3点。ブランドやマーケティング担当の方は、「CSR」が2~3点といった傾向にあります。これまで両方とも8点以上つけられた方はいらっしゃいません。謙遜でしょうが、有力企業のマネージャークラスでも、ブランドについては1点という方もしばしばおられます。それほどに、ブランドの世界はふわふわとしてつかみどころがないようです。

ブランド講座の冒頭に、「ブランドと言えば?」とご質問すると、もっぱらルイ・ヴィトンやエルメスなどの欧州の高級ブランドが想起されるようです。こうしたラグジュアリーブランド本位の捉え方をしてしまうと、「うちは、BtoB企業だから」とか「うちは、中小企業だから」といった、ブランドについては直接関係ないという縁遠いスタンスになってしまいます。

ブランドは、規模の大小・業種業態に関わらず、企業の生き残り戦略の最後の切り札として語られるようになっています。技術など何事を習得する場合においても、「原理と方法」が大切です。

とかく茫漠としがちなブランドの世界においては、断片的な知識やテクニカルな方法論が先行しがちですが、まずは本質や原理を見極めましょう。これは、大学にも病院にも当てはまります。

ブランド戦略=広告宣伝戦略?

「ブランド戦略=広告宣伝戦略」のように語られることがよくあります。ブランド戦略は、単なるイメージ戦略やマーケティング戦略、あるいはコミュニケーション戦略ではなく、ましてや広告戦略ではありません。

広告宣伝の本来的な目的は、企業や商品の特性を訴求し認知してもらうことです。広告宣伝は、ブランド力を高める手段の一つです。広告宣伝をしなくてもブランド力のある企業や商品・サービスはたくさんあります。

ITの急速な進化により情報化社会は目覚ましく進展し、消費者や生活者は、商品・サービスの選択の幅が広がりました。市場は成熟化し、商品・サービスの差別化がますます難しくなってきています。

選ぶ方は「商品・サービスはどれも同じ」と思っています。これを商品・サービスのパリティ化といいます。

ところが、「どれでもいいや」という選択ばかりではなく、「あるポイントで、何らかの理由により、ある商品・サービスを選び、購入している」ことも厳然たる事実です。その選択基準にこそ、「ブランド」というありがたい存在があります。

しみじみ考えてみる、「ブランド」ってなんだ?

私たちが、お気に入りのものを選ぶ際、
・ちょっと高くても問題ない
・待ってでも手に入れたい
・遠くに行っても手に入れたい
というハードルを超えようとするところに、「ブランド」が背中を押してくれます。

まず、目指す商品を購入する際には、「ロゴマーク」を頼りに選びます。ロゴマークをブランドと呼んでしまうことが多いようですが、何故そのマークを選んでいるのでしょうか?

マークが好きだからということもあるかもしれませんが、そのマークをたよりに、自分が期待する何かを「約束」してもらえるからではありませんか?マークを知らない、マークを見ても世界観など何も伝わらない、期待する「ブランドとしての約束(プロミス)」を果たしてもらえそうにないマークは、おそらく「ブランド」とは見なさないのではないでしょうか。

「ブランド用語」を使いこなす

端的に言えば、選ばれる特別な理由をもった商品/企業が「ブランド」なのであり、そのロゴマークや商標はシンボルとなります。

強いブランドは、そのシンボルマークを見たとたんに、「ああ、あれか」と認識でき、ならではのベネフィット(ご利益)やある種の風景・世界観を思い浮かべます。ブランドが持つ力が「ブランド力」であり、その正体は「選ばれる特別な理由」です。その原動力となるのが、「ブランド・アイデンティティ」、すなわち『らしさ』です。

ブランドの源泉ともいえる『らしさ』を発見し、創り、パワーを最大限に発揮できるようにする一連の活動を「ブランディング」といいます。「知ってもらい」「信頼してもらい」「愛着を持ってもらい」、その上で「支持してもらう」「選んでもらう」までを含めて、はじめて現代のブランディングといえます。その肝心要の『らしさ』を基軸に、顧客のみならず広くステークホルダーからの支持獲得を図る戦略が「ブランド戦略」です。

時代に選ばれ、次代にも選ばれ続けるために

時代は常に移り変わり、それとともに顧客・生活者のニーズや価値観も常に変化します。ブランドの価値観や美意識も、万古不易の部分と時代の変化にしなやかに対応する部分が同居することが肝要です。

せっかく築かれたブランドも、常にメンテナンスをし、磨き続けなければ、すぐに輝きを失い、いつしか顧客・生活者にとって魅力的ではなくなってしまいます。ブランドは、ほっとくと錆びつきますし、老け込みます。

ブランドに『時代性』を備えるところに、「CSRブランディング」の真髄があります。時代性とは、時代の変化をしなやかに捉え、それに応じることです。時代に選ばれるには「ブランディング」は必修科目であり、次代にも選ばれ続けるためには、「CSRブランディング」がお薦めの上級科目です。

SB-J コラムニスト・細田 悦弘

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