宙に浮く基金案 諫早干拓 国と漁業者 深く対立

 国営諫早湾干拓事業の開門確定判決を事実上無効とした福岡高裁判決を受け、10日に上告した開門派漁業者側と国の考え方の溝は深い。国は開門せずに100億円の漁業振興基金案で和解を目指す方針を堅持するが、審理中の関連訴訟で和解協議の予定はなく、基金案は宙に浮いた状態。漁業者側は「開門、非開門の枠組みを設けず、有明海再生に必要なことを話し合うべきだ」と主張する。
 国の基金案は2016年、長崎地裁の開門差し止め訴訟の和解協議で提案された。基金案の運営主体とされた有明海沿岸4県と各県漁業団体のうち、佐賀だけが賛同しなかった。
 17年4月の開門差し止め訴訟で敗訴した国は控訴を見送り、非開門による基金案での和解方針を明示。その後、3県漁業団体は排水ポンプ増設など3項目の要望実現を条件に、基金案への賛同に転じた。
 福岡高裁は3月、国の方針に沿った形で和解勧告を行ったが、漁業者側が応じず決裂、今回の判決に至った。国は基金案を和解成立の条件としたため、基金案も3県漁業団体の要望も実現のめどは立っていない。
 2度の和解協議決裂にもかかわらず、国は「機会があれば和解協議を持ちたい」とし、従来通り司法の場で全体的な解決を目指す考え。「判決を受けて、漁業者の中で考えを変える人が出てきてくれたら」(農林水産省幹部)と漁業者側の翻意に期待感を示す。
 もともと基金案の実効性に疑問を持つ漁業者側は、非開門前提の和解協議や3県漁業団体を巻き込んだ国の手法に反発。堀良一弁護士は「現在の方針ではテーブルにつけない。特定の案(開門)だけをタブーにしてはいけない」と述べた。

© 株式会社長崎新聞社