シカ被害保護柵で丹沢の植生回復 県職員研究に森林学会賞

 増えすぎたニホンジカによる森林被害が全国各地で深刻化する中、神奈川県が全国に先駆けて丹沢山地に設置した、食害を回避するための「植生保護柵」が植生の回復に効果を上げている。姿を消した25種の植物が復活しただけでなく、早めの対策が自然再生に功を奏することも分かった。約20年に及ぶこうした一連の研究が評価され、県自然環境保全センター主任研究員の田村淳さん(48)がこのほど、2018年の日本森林学会賞を受賞した。

 丹沢山地の生態系に大きな異変が起こり始めたのは1980年代。急増したシカがブナ林内の多年草やスズタケ、若木などを大量に食べ、希少植物から姿を消し始めた。地表を覆う落ち葉も食べてしまい、土壌流出を引き起こした。

 そこで県は97年から、植生回復対策として、丹沢大山国定公園の特別保護地区などに、一辺が30~50メートルの四角形で、高さ1・8メートルの植生保護柵を順次、設置。18年3月時点で86・8キロに延長され、約72ヘクタールが金網に囲われた。設置数は667基に上り、国内山域では有数の規模という。

 田村さんの研究論文によると、これまでに県絶滅危惧種の多年草25種が柵内で確認された。うちイッポンワラビ、タチヒメワラビ、ノビネチドリ、クガイソウは90年代に絶滅種として扱われたものだった。

 同一斜面で設置年の異なる柵内を観察した結果、シカの採食を長く受けた場所では、多年草の地下茎が枯死して回復しづらい種があることも判明。林床植生の衰退が顕著になる前に設置するのが有効との科学的知見が得られた。

 さらにシカを管理捕獲して生息密度を下げれば、柵の設置が柵内だけでなく、柵外の自然環境にも有用であることが分かった。16年には県絶滅危惧種のハルナユキザサやクルマユリが柵外で開花しているのが確認された。柵が外側にも種子を供給する役割を果たしたことになり、「自然再生に向けて明るい兆し」という。

 県職員では初めて日本森林学会賞を受賞した田村さんは「シカ問題の対応は柵の設置と頭数管理の一体的、順応的な取り組みが重要」と指摘。今後について「柵は対症療法にすぎない。柵外のシカの生息密度を低い状態で保ち、植生がどの程度回復できるのか評価することが焦点」とし、「柵の増設はまだ必要だが、柵のないかつての丹沢に戻すことが将来の目標になる」と話している。

植生保護柵内で復活したクガイソウ(県自然環境保全センター提供)

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