反戦の願い歌に込め  藤沢で朗読劇、戦争体験者ら出演

 戦火を生き抜き、俳優として活躍する宝田明さんの半生を描いた朗読劇「宝田明物語」が18日、藤沢市民会館大ホール(同市鵠沼東)で開催される。県内初開催となる舞台の最後には公募で集まった市民合唱団も出演。その多くは宝田さんと同じく戦争を体験した人たちで、「胸にしまいこんできた思いを歌に込めたい」と語っている。

 宝田さんは、朝鮮北部(現・北朝鮮)の清津市で生まれ、小学生のときに旧満州(中国東北部)に移り住んだ。敗戦後、満州に侵攻したソ連兵の銃撃で重傷を負い、引き揚げ時には過酷な逃避行を強いられた。

 高校卒業後に俳優活動をスタートし、映画やテレビドラマなど数多くの作品に出演。ミュージカル俳優としても活躍している。「宝田明物語」は、宝田さんの半生をミュージカル仕立ての朗読劇で描く。

 一方、今回の舞台で歌声を披露する合唱団の参加者の多くも戦火をくぐり抜けてきた。5月上旬、藤沢市内で開かれた初回練習会。自己紹介に立った参加者は一人、また一人とそれぞれの体験を口にした。

 戦後、旧満州から引き揚げた金井公子さん(79)=藤沢市=は「宝田さんの舞台を見たときは胸が痛くなった。でも、自らの体験を通じて戦争や平和の問題を社会に問い続ける宝田さんの姿に心を動かされ、私もできることをしたいと思った」と語る。

 合唱団が歌う楽曲は3曲。その中には、宝田さんが作詞した「私の願い」もある。

 〈戦争となれば 人は憎しみ 我慢してゆく それをぬぐい去ることはもうできない それを止めるのは 私たちの一人一人の力 それを止めるのは 私たちの果たすべき使命〉

 歌詞には宝田さんの強い思いが刻まれている。

 北海道で幼少期を過ごした小野精司さん(76)=藤沢市=は「仲の良かったロシア人夫婦は開戦を境に、近所から遠ざけられ、監視されるようになった。他者は認めない、という空気があった。近年、社会で起こるさまざまな事件や政治家の発言を見ていると、同じような空気を感じる」と顔を曇らせる。

 宝田さんは近年、市民団体などが主催する講演会に登壇し、今の政治や社会の問題について自らの考えを積極的に発信している。関係者も思いを共有し、公演の実行委員の一戸法子さん(80)=相模原市=は「歌を通して、私たち戦争体験者の思いや願いを伝えることができればうれしい」と話している。

 午後3時開演。前売りはS指定席4千円、A自由席3千円、2階自由席2千円。当日券は各席500円増。チケットの問い合わせは実行委員会担当者電話080(1125)4577。

本番に向けて練習に励む市民合唱団=藤沢市

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