DS7 CROSSBACK試乗|かつての”ハイドロ”を思わせる柔らかな乗り心地に感服

プレイス:DS7 クロスバック

シトロエンの”DS”と言えば名車の証

DSオートモビルズが新たに発表したDS7 CROSSBACK(クロスバック)に乗ってきた。

聞き慣れない、この”DSオートモビルズ”とは、シトロエン社が数年前から始めたプレミアムブランドなのですね。トヨタで言うレクサスみたいなものでしょうか。

僕のようなオヤジ世代のクルマ好き、中でもフランス車ファンならば、“DS”と聞いただけで涙目になってしまう「シトロエンDS」というクルマがありました。1955年から75年まで20年にもわたって造り続けられた名車中の名車、カリスマ中のカリスマです。昔のフランス映画には必ずといって良いほど登場していました。

シャルル・ド・ゴール大統領とシトロエンDSの大統領専用車

なぜDSが、そこまで崇め奉られていたかというと、ハイドロニューマチックという超革新的なシステムを備えていたから。

詳しい話は省きますが、油圧とガスを利用して、サスペンションだけでなくブレーキやステアリングなどもコントロールしてしまおうという、非常に個性的かつ野心的なシステムだったからです。操縦方法は独特でしたが、船に乗ったような快適な乗り心地が夢のようでした。

時代とともに薄れていった個性

そのシステムを体現しているかのような、前衛的なボディスタイルもまたオリジナルのDS人気の理由です。そのスタイリングはとてもクルマに見えないような、個性の塊といった感じです。

DSは、その後CX、XM、C6とモデルチェンジを繰り返し、シトロエンのフラグシップを務めて来ました。同時代の他メーカーのクルマと較べればどのモデルも個性に溢れていましたが、モデルチェンジを経る毎に個性の度合いが薄れていったことも、残念ながら厳然とした事実でした。

“時代”がそうさせたのかもしれません。それは、以前にCXに乗っていた僕だけでなく、多くのシトロエン乗りが嘆いていたことです。

トレンド路線には決して乗らないシトロエン独自の未来志向

プレイス:DS7 クロスバック

話を戻すと、シトロエンがそこまで偉大な名前を新ブランドに冠したからといって、DS各車がレトロ路線を採ってはいないというところが、ヘソ曲がり(失敬!)なシトロエンらしくてとてもいいと思います。

MINIやフィアット 500、アルピーヌ A110のように、ブランドのアーカイブ価値を目一杯活用しようとするのもひとつの展開方法ですけれども、DSはそれを良しとしないようです。未来志向ということならば、そこもまたシトロエンらしくて良い。

シトロエンらしい柔らかく優しい乗り心地

プレイス:DS7 クロスバック
プレイス:DS7 クロスバック

新しく登場したDS 7 CROSSBACKは流行りのSUV。巨大でもなく、小さくもないサイズ。1.6リッター4気筒ガソリンエンジンを搭載するGrand Chic(グランシック)で走り出して、その柔らかな乗り心地に驚かされました。自分が乗っていたCXを思い出したからです。過去には、AXやC4のように、ハイドロニューマチックシステムを採用していなくても、それっぽく柔らかで優しい乗り心地を持ったシトロエンは何モデルもありました。

そうしたクルマよりも、DS 7 CROSSBACKは断然ハイドロっぽく、走行モードを「コンフォート」に設定すると、最も強く感じる。

DS7 クロスバック Grand Chic(グランシック) 1.6リッター直列4気筒ガソリンターボ

ただ柔らかく優しいだけではなくて、ロールはするけれども、コーナーでは吸い付くように粘るところもCXを思い出します。「ノーマル」や「スポーツ」などに変えても、柔らか目であることは変わらず、こんなに柔らかくて粘る足回りを持っているSUVを他に知りません。

次に、2.0リッター4気筒のディーゼル版(こちらもGrand Chic)に乗ってみました。乗り心地の基本は変わらず、柔らか指向ですが、抑えが強めに効いていて、長距離を連続して走る場合は、こちらの方が快適かもしれません。

独自の技術によって課題を解決するシトロエンの流儀

DS7 クロスバック Grand Chic(グランシック) インテリア:オペラ(オプション)

運転支援デバイスのACC(アダプティブクルーズコントロール)とLKAS(レーンキーピングアシスト)は、標準装備であるだけでなく、アクティブ状態になっていることをメーターパネル中央に大きくわかりやすく表示できる点も優れています。

LKASは運転中の設定によって、細かく走行ラインを定められるという新機軸も備えています。

また、新機軸といえば、カメラで前方の路面をスキャンしながら走り、電子制御ダンパーを事前に制御することで、路面の段差によるショックを軽減しようという試みも行われています。

限られた試乗時間内では、その効能を感じ取ることはできませんでしたが、独自の技術によって、課題を解決していこうというシトロエンの流儀が垣間見えて、元オーナーとしてはうれしい限りです。

次の段階へ踏み込むシトロエンのフラッグシップ

プレイス:DS7 クロスバック
DS7 クロスバック So Chic(ソーシック) インテリア:バスティーユ
DS7 クロスバック So Chic(ソーシック) インテリア:バスティーユ

DS 7 CROSSBACKには2モデルあって、Grand Chicが革シート、So Chicが布シート。面白いのは、So Chic(ソーシック)の方が価格が93万円(ディーゼル同志の比較)も安いのですが、「グリップコントロール」というトラクションコントロールをパッケージオプションで選ぶことができます。これは、「サンド(砂地)」、「マッド(泥)」、「スノー(雪)」の路面ごとに最適な出力&変速特性を設定できますが、上位グレードであるはずのGrand Chicでは選べません。

また、DS7 CROSSBACKは前輪駆動ですが、このグリップコントロールによって、4輪駆動に迫る駆動力を得ようとしているのも実践的で、ボディサイズの割りに小回りが効くのも、シトロエンの美点を思い出しました。

このように、DS 7 CROSSBACKは、これまでのDS各車とは少し異なっていて、次の段階に踏み込んでいるようです。ハイドロニューマチックサスペンションを思わせる柔らかな乗り心地や粘るハンドリング、優れたドライバーインターフェイスなど、いずれも、シトロエンのフラッグシップであるDSの個性と優位性を示しています。

百花繚乱のSUVにあってひときわ個性を放つDS7 CROSSBACK

DS7 クロスバック Grand Chic(グランシック) ボディカラー:ブラン・ナクレ
DS7 クロスバック Grand Chic(グランシック) ボディカラー:ブラン・ナクレ
DS7 クロスバック Grand Chic(グランシック) ボディカラー:ブラン・ナクレ

多くの自動車メーカーからさまざまなタイプのSUVが発売されています。SUVといえどもオンロード性能を第一に開発されているものがあれば、ヘビーデューティなオフロード走破力に軸を置いているものもある。デザインに力を入れているものの、反面、居住性を重視しているものもあるといったように百花繚乱です。

DS7 クロスバックと金子浩久氏

そんな中にあって、DS7 CROSSBACKはひときわ個性を主張しています。安易にレトロ路線に走らず、先進かつ独自の技術と装備を追求しているのは、CXに乗っていた者でなくても頼もしく思えてくることでしょう。

DS7 CROSSBACKは、シトロエンがずっと標榜し続けてきた価値を、新しい技術によって具現化しています。そして、これからDSオートモビルズは、1年に1モデル以上の新型車を投入してくる予定だというからとても楽しみです。

[Text:金子 浩久/Photo:小林岳夫]

DS7 CROSSBACK主要スペック

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