【自動車用鋼材、マルチマテリアル化の潮流に変化】超ハイテン鋼で軽量化、コスト競争力向上 「鉄」の素材特性を再評価

 自動車のマルチマテリアル化が進む中、トヨタ自動車をはじめとする東海地区の自動車メーカーや部品メーカーで「鉄の素材特性を再評価しよう」とする動きが目立ってきた。ボンネットやドアなどでアルミ使用比率は上昇しているが、諸コストも含めた鉄の優位性や異素材接合技術に改良の余地もあるため、今後もその比率が右肩上がりに上昇する感じとはいえない。ホットプレス用の素材の流通もここにきて着実に増えてきており、こうした流れはコイルセンター業や金属プレス加工業の今後の経営の方向性にも影響を与えそうだ。

 東海地区の大手鋼板加工業者では、今夏からアルミコイルの扱いが増えてきた。同時に、ホットプレス用の鋼板も着実に増えている。

 アルミ合金板は、自動車のエンジンフードやフェンダー、ドア、ルーフなどに用いられることが多く、主に軽量化を目的に使われる。欧米ではこうした部品のアルミ化はかなり進んでおり、熱間プレス加工して急冷しハイテンションを出すホットスタンピング技術も普及している。

 自動車のマルチマテリアル化は、2020年のCO2排出規制への対応を目的に、世界中で自動車の軽量化ニーズに応えるために進んでいる。EV化の進展により、この流れはますます強まることになりそう。

 これに対し日本の自動車メーカーでは、これまでの金属プレス加工技術を発展させる形で、ハイテン鋼の使用比率が拡大。100キロ(kgf/平方ミリメートル=980N/平方ミリメートル)級ハイテン鋼の使用は当たり前の状況になってきており、120キロ以上の超ハイテン鋼の比率も増えている。

 これに、最近ではアルミ板の使用比率拡大の動きが顕在化。トヨタRAV4などの国内向け生産が本格化することに伴い、地区の流通・加工段階でも、超ハイテン鋼に加えアルミ板の使用比率が拡大している。

 だが、関係筋の認識は徐々に変わっている。当初は「全体的に、当初の予想よりも速くアルミ化は進む」という予測が一般的だったが、ここへきて「当面は鉄の性能を使い尽くすのが優先課題」との議論が再燃。マルチマテリアル化の潮流に再び「潮目の変化」が見られるようになった。

 主な理由はコスト。自動車の国際競争力を高めるためには、既存の加工技術やコンテンツなどをそのまま使って各工程を「整流化」することがカギになる。

 また、アルミ板などを使用することによる部品メーカーや組み立てラインでの「品番管理の複雑化を避けるべき」との議論もある。

 さらに、アルミと鉄の直接接合技術の進展を見ながらマルチアテリアル化を進めるべき、との考えもある。

 使用素材の変化や海外移転に伴って、鉄鋼業も各方面で対応を迫られることになる。今後の大きな変化を冷静に見極め、対応することが重要になりそうだ。

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