戦場体験

 命令だから仕方ない。腹を決めて力任せに刺した。これでもう死んだろうと思ったが、中国人は草むらのところで起き上がろうとした。あわててまた刺した。富山出身の元衛生兵の証言▲インパール作戦の撤退に入ると、生き地獄ってのはこれだなという場面に遭遇した。道路の両脇に白骨や動けなくなった兵隊がごろごろ転がっていた。栃木出身の元砲兵の証言▲長崎市のナガサキピースミュージアムで始まった戦場体験聞き取りキャラバン報告展のパネルから。東京の民間団体、戦場体験放映保存の会が収集した話の一部だ。その凄惨(せいさん)さは文面を追うだけで胸が詰まるほど▲第2次世界大戦時には、無数の日本兵が海外に出征し、人と人とが殺し合う戦争の最前線に赴いた。その体験を記録して後世に残そうと、保存の会は全国に出向いて活動している▲「あえて、二度と戦争を繰り返さないための活動とは言わない」と事務局の田所智子さん。「それは証言に接した一人一人が、自分なりに考えた末たどり着くもの」▲生きるか死ぬかの極限状態に置かれた人間の心理は、それを体験した人からしか知ることはできない。普通の人が鬼に変わることもある。それを教えてくれる戦場の証言から、私たちは目を背けてはならない。きょうは73回目の終戦記念日。(泉)

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