平和とは…模索する中高生 ある少年の写真を胸に刻み

 五指を伸ばし、直立不動の姿勢で立つ少年。口を真一文字に結び、背中におぶった幼子が火葬されるのを待っていた。ただじっと前を見つめて-。

 原爆投下後の長崎で、米国の従軍カメラマンだった、ジョー・オダネルが撮影した写真「焼き場に立つ少年」だ。

 この1枚の写真をきっかけに、清泉女学院中学高等学校(鎌倉市城廻)の生徒有志が今春、平和学習プロジェクトを始めた。

 「命の尊さを改めて感じてほしい」。同校倫理科の小野浩司教諭(38)は昨夏、オダネルの写真を校内に展示した。高校3年の加藤純菫(すみれ)さん(17)は少年の目に射抜かれ、足を止めた。「心を失っているように見えた」

 戦争被害の実相は、詳しく分からない。ただ戦争は、命だけでなく、生き残った人の心をも奪うと、その目は教えた。「戦争の悲惨さや平和の尊さについて考える機会を、自分たちの手でもっとつくれるはず」

 模索する中、第2次世界大戦中、多くのユダヤ人難民を救った外交官・杉原千畝の生涯を伝えるパネル展が校内で開かれることを耳にした。

 加藤さんは放送室のマイクを握った。「ユダヤ人差別と虐殺の歴史を、皆さんはどう思いますか」「平和について、一緒に考えてみませんか」。3分間の呼び掛けに、中学1年生から高校3年生まで約20人が集まった。

 加藤さんを代表にして始まった「seisen peace project」は、生徒自身がテーマと学習内容を決め、意見を出し合い、企画を練る。

 生徒有志はまず、杉原の外交官時代に何が起きていたのかを知るため、ユダヤ人虐殺(ホロコースト)の実態やユダヤ人の抵抗運動などを勉強。「戦争から目をそらさず過去を学び、これからの世界に生かしてほしいと思っているのでは」。杉原の願いに思いをはせた。彼の苦悩の日々を描いた映画の観賞会も企画。終了後、ある生徒は感想文にこうつづった。「私も違いのある人と一緒に、仲良く手を取り合っていきたい」

 「戦争や平和について、同世代が一緒に何かを考えられる場所」としてプロジェクトを立ち上げて、初めて迎えた夏。「学べば学ぶほど、もどかしさも感じている」と加藤さん。爆弾が空から落ちてきたことはない。「人を殺せ」と強制されたこともない。「戦争の痛みを想像することしかできない」

 それでもと、加藤さんは前を向く。「戦争を経験した人々の抱え続けている苦しさを、戦争を知らない私たちこそ、しっかり受け止めたい。『二度と戦争はしない』と伝える側に、体験者とともに立ち続ける。それが私たちにできることだと思うから」。プロジェクトに参加する高校3年の國友陽奈さん(18)もうなずく。「過去をしっかり学び、戦争をなくしたい」

 今秋からは、多くが命を散らした太平洋戦争などをテーマに据えるつもりだ。

生徒有志は今年5月、外交官・杉原千畝の生涯やホロコーストについて調べたことを発表した(清泉女学院中学高等学校提供)

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