後半戦に向けた課題、中団争いを制するためのキーパーソン/今宮純のトロロッソ・ホンダF1『前半戦白書』

 F1ジャーナリストの今宮純氏が2018年シーズン前半戦のトロロッソ・ホンダを分析。後半戦に向けて4つのポイントを取り上げていく。

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 100ポイントまであと2点。2018年トロロッソと組むホンダは、2015年の復帰からここまで72戦で98ポイントをスコア。1レースあたり“1.3ポイント以上”、つまり10位入賞ラインはキープしてきた。しかし、言い方を変えれば全20台のど真ん中、新生トロロッソ・ホンダ『善戦苦闘』の2018年シーズン前半戦を多角的に見直してみよう。

*白書その1:中間戦績からトロロッソ・ホンダの現状
 あらためて、これまでの12戦時点における中間戦績を一覧する。

2015年:マクラーレン・ホンダ 17点/9位2016年:マクラーレン・ホンダ 42点/7位2017年:マクラーレン・ホンダ 11点/9位2018年:トロロッソ・ホンダ  28点/8位

 2年目のマクラーレンには及ばないものの初年度トロロッソ・ホンダは、15&17年の合計点と同点。これは大きな〇だ。このチームは過去にコスワース~フェラーリ~ルノーと13シーズンの間、使用エンジンが次々に変わった。直近のルノーPU(パワーユニット/エンジン)初年度(14年)は中間12戦までに19点/7位、今年ホンダPUを得たトロロッソ・ホンダは得点力で2014年当時の成績を上回っている。これも〇だ。

*白書その2:トロロッソ・ホンダのBリーグ成績
 1グランプリ=101点の争奪レース(入賞合計得点)、ここまで12戦で1位メルセデス345点、2位フェラーリ335点、3位レッドブル223点、上位3チームが合計903点。つまり1212満点の74%以上を占める。ランク4位のルノーは、二ケタの82点にすぎず、絶対的な格差がある。そのためトップ3チームが『チャンピオンズ・リーグ』なら、ミドル以下の7チームは『Bリーグ』、そんな表現が使われるようになった。では前半12戦のBリーグ優勝チームと、トロロッソ・ホンダのリーグ内順位を一比較覧する。

レース Bリーグ優勝チーム トロロッソのBリーグ内順位

第1戦オーストラリアGP マクラーレン 6位

第2戦バーレーンGP トロロッソ 1位

第3戦中国GP ルノー 7位

第4戦アゼルバイジャンGP フォース・インディア 5位

第5戦スペインGP ハース 7位

第6戦モナコGP フォース・インディア 2位

第7戦カナダGP ルノー 4位

第8戦フランスGP ハース 6位

第9戦オーストリアGP ハース 5位

第10戦イギリスGP ルノー 6位

第11戦ドイツGP ルノー 5位

第12戦ハンガリーGP トロロッソ 1位

 Bリーグ優勝回数は1位ルノー4回、2位ハース3回、3位トロロッソ・ホンダとフォース・インディアが2回、5位マクラーレン1回だ。トロロッソ・ホンダにとって第2戦バーレーンGPの4位入賞と第12戦ハンガリーGPの6位入賞が、彼らにとっての“優勝”にあたるが、逆に最下位を争うようなレースもかなりある。

 それは、開幕戦オーストラリアGP、第3戦中国GP、第5戦スペインGP,第8戦フランスGP、第10戦イギリスGPである。コース特性(マッチング)やセッティング最適化の問題点、トラブルやアクシデントなど負の要因も重なり、思わぬ大苦戦を強いられた。

 勝因と敗因、それぞれしっかり解析することが一進一退のレースパターンを改め、平均得点力アップにつながる。Bリーグ7チームのなかではワークスとして組織強化中のルノーが秀でており、財政難を抱えながらもフォース・インディアは手堅い。トロロッソ・ホンダはこの領域で彼らにやや劣っている状態で、後半戦から2019年シーズンに向けて課題の一つとなる。

■ピエール・ガスリーだけではなく、ブレンドン・ハートレーの奮起にも期待

*白書その3:懸念されるジェームス・キー移籍問題
 7月末に突如明らかになった、トロロッソ・ホンダのテクニカルディレクターであるジェームス・キーのマクラーレン移籍問題がどう推移していくか。政治的な契約うんぬんよりも、彼が抜けた穴を補填するシステム・リビルド・ワークに集中すべきだろう。

 またサマーブレイク期間に入りホンダの動向に関する情報は乏しいが、最新スペックのパワーユニット開発スピードと投入タイミングも気になってくる。一時は「第18戦アメリカGPか」という説が流れ、その前に第17戦日本GPを焦点に前倒し、という動きも考えられる。この案件にはレッドブル・グループの思惑もからみ、2019年の2チーム新体制移行にプラスとなる思い切った判断があるかもしれない。

*白書その4:ブレンドン・ハートレーの奮起に期待

 前半12戦で“DNF”が多かったチームは以下の通り。
1~2位:トロロッソ・ホンダ、レッドブル 8回3位:マクラーレン 7回4位:ウイリアムズ 6回5位:ハース&ザウバー 5回

 ドライバーに関しては、以下に記すようにどちらもレッドブル・グループ勢が“1-2”になってしまった。
1位:ブレンドン・ハートレー 5回2位:ダニエル・リカルド、マックス・フェルスタッペン、フェルナンド・アロンソ、ロマン・グロージャン 全員4回

 ピエール・ガスリーとハートレーの予選/決勝成績には大きな差が見られ、ランキングも13位(26点) 対 19位(2点)。チームメイトとのギャップが広がり、ハートレー去就の噂が前半戦途中から広まっていった。

 すべてのフリー走行から予選セッションまでを一覧すると、ガスリーが37回先行しているのに対してハートレーは11回、クラッシュやスピンも目立った。さらに細かくチェックすると、ハートレーが初日フリー走行1回目でタイムを先行したのは3回(開幕戦、モナコGP、ドイツGP)。周回数をガスリーより多くこなし、徐々にタイムを上げていた。WEC耐久育ちだからとは言いきれないものの、ぐいぐいタイム・レベルを上げていくガスリーとの違いが、このあたりに潜んでいるのかも……。

 走り出しの差を取り戻そうとする彼にはメンタル面での焦り、迷いなどがうかがえ、流れにのれないまま予選~決勝が苦しい状況になっていた。後半戦の彼自身の課題は、FP1でチームメイトに離されないよう“起動性”を早め、そこから流れをつかんでいくこと。トロロッソ・ホンダの後半戦キーパーソンはハートレーだ。ガスリーとフォーメーションを組み、さらなる激化が予想される“Bリーグ”に切り込んでいって欲しい。

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