GPIF、初のESG活動報告書を発行

国民年金や厚生年金の管理・運用を行う年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)は13日、初めてESG活動報告書を発行した。世界最大級の運用資産額を有するGPIFは2017年7月、長期的な利益確保を目指し、環境や社会、企業統治などの非財務要素を考慮したESG投資を開始。報告書は、GPIFのESG投資が金融市場の持続可能性の底上げにつながっているかの効果検証やAIによるESG評価の動向、ESG評価の課題について明らかにしている。(サステナブル・ブランド ジャパン=橘 亜咲)

GPIFが目指す、市場に変化をもたらすESG投資の構造

ESG投資について、GPIFは「100年先を見据えて設計された日本の年金制度の一翼を担う上で、長期的な利益確保が何より大事。そのためには、投資先企業のガバナンスの改善に加え、環境・社会問題など負の外部性を最小化すること、つまりESGの考慮が重要」との認識を明かしている。その上で、運用会社を適切に選定・評価し、運用会社と投資先企業との持続可能な成長に関する対話の促進を通して、市場全体の持続可能性の向上や底上げを目指していく考えだ。

GPIFは2015年にPRI(責任投資原則)に署名して以降、ESG投資の実施に向けて取り組みを進めてきた。ESG投資を開始した後、2017年10月には投資原則を改訂し、ESGに関する記述を追加。今年4月にはグリーンボンドやソーシャルボンドを多数発行する世界銀行グループと協働し、債券投資におけるESGの考慮に関する報告書をまとめた。さらには、委託する16の運用会社に企業の統合報告書を活用することを求め、「優れた統合報告書」「改善度が高い統合報告書」を選定させ、結果を公表し、企業のESGの取り組みを促進する活動も行なっている。

報告書では、GPIFのESG投資が国内外企業のESG評価の向上やESG対応への強化につながっているのか効果検証を実施している。株価指数の作成・管理を行う英FTSEインターナショナルによる2017年3月と2018年3月のGPIFが保有する国内外株式のESG評価を比較すると、国内は2.44から2.62、国外は3.03から3.17へと共に評価が上がっている。さらに同社の国別ランキングでも、フランス、イギリス、カナダ、アメリカ、インドに次ぐ6位という順位は変わっていないもののポイントは2.00から2.20に上昇。ESG評価の国別改善度ランキングでは、日本が1位となり、香港やインド、中国が続いている。企業へのアンケートでも、GPIFのESG投資への着手が社内の組織体制や意識の変化につながったと、大型株企業の78.2%が回答している。

報告書は、「ESGに関する世界の潮流」「ESG評価とAIの融合」と題した2つのコラムを掲載。前者では、サステナビリティとインクルーシブネス(包摂性)が2大トレンドであることを紹介している。また、世界の金融業界の動向として、ESGをリスク要因として考慮するのは当たり前となり、現在では投資機会をどう捉えるかに注目が集まっている説明。世界のグリーンボンドの発行額については、欧州の他に米国や中国でも増えており、今では中国が世界第一位の発行国となり、日本は大きく出遅れているとしている。

ESG評価へのAI導入については、着々と進んでいるとしながらも、AIが評価するのは既存のデータのみであることから、情報量の少ない小規模企業の正確な評価が難しいなどの問題があり、現状では、AIだけでESG評価を行うことは難しいとの見解を示している。

GPIFは、ESG評価について、評価会社の間で評価のばらつきがあることや評価のタイミングが評価会社によって異なることなどまだ不完全で課題があると指摘している。GPIFは今後も、ESG投資の効果を毎年確認することで、長期的にESG投資の効果を検証していく考えだ。

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