2017年「合同会社」の新設法人調査~ 新設企業の5社に1社が選択、構成比は過去最高に~

 2017年1月-12月に全国で新設された法人(以下、新設法人)は、13万1,981社(前年比3.1%増)で、2010年以来、8年連続で前年を上回った。なかでも「合同会社」は2万7,039社(同14.4%増)と急増ぶりが際立った。
 「合同会社」は、「株式会社」より設立費用が安価で、手続きも簡易な上に株主総会を開催する必要もなく経営の自由度が高い。最近では2018年5月に (株)DMM.comが(株)DMM.comラボを吸収合併し、株式会社から合同会社に組織変更している。同社は、この目的について「意思決定の迅速化、事業推進の効率化を図ること」と説明している。さらに大手外資系企業の日本法人であるボーズ(2017年) 、ワーナーブラザースジャパン(2016年)も合同会社となる動きがあった。

  • ※※ 本調査は、東京商工リサーチの企業データベース(対象477万社)から「合同会社」を抽出し、2017年1月‐12月 に設立された新設法人と過去の新設法人データを分析した。
合同会社 新設法人年間推移

新設法人の5社に1社が合同会社

 2017年の新設法人のうち、「合同会社」は2万7,039社で、前年より3,412社増加した。増加率(14.4%増)は前年(7.7%増)を6.7ポイント上回った。当初、「合同会社」は信用の面で「株式会社」より低いとされていた。だが、 2006年の会社法施行から10年余を経て、大手外資系企業の日本法人が合同会社となった実績に加え、様々なメリットも浸透してきたようだ。 新設法人に占める「合同会社」の構成比は年々上昇し、2013年の13.1%から2017年は20.4%に上昇、2割を超えて新設法人の5社に1社にまで増えている。

主な法人格の前年比・構成比推移
主な法人格の前年比・構成比推移

産業別 農・林・漁・鉱業以外の9産業が増加

 「合同会社」を産業別でみると、10産業のうち、8産業が前年より増加した。構成比トップは、サービス業他で38.7%を占めた。サービス業他の新設法人は中小・零細企業が中心で、取引相手も一般消費者が多く、会社形態にさほどこだわらないことが要因とみられる。増加率のトップは、不動産業で前年比34.9%増。金融・保険業(前年比32.4%増)、建設業(同30.4%増)も30%以上の増加率だった。

合同会社 産業別新設法人年間推移

業種別 金融,保険業が急増

 業種別でみると、社数トップは不動産業で6,024社(構成比22.2%)だった。2015年が3,738社、2016年が4,465社と年々増加している。金融,保険業は2016年の前年比20.1%減(959社)から、2017年は同32.4%増(1,270社)と大幅に増えた。FX(外国為替証拠金取引)や急騰した仮想通貨で利益を得た個人が節税目的で「合同会社」を設立し、押し上げたことも一因とみられる。
 一方、減少は繊維工業(同7.9%減)、織物・衣服・身の回り品小売業(同1.8%減)などが目立った。

都道府県別 東京都が全体の3割以上を占める

 都道府県別では、最多は東京都の9,522社(前年比20.0%増、構成比35.2%)。次いで、神奈川県の2,020社(同15.0%増、同7.4%)、大阪府の1,821社(同18.2%増、同6.7%)と大都市圏が上位に並んだ。
 33都道府県で前年を上回り、増加率トップは、和歌山県の前年比59.0%増。次いで、山梨県の同51.4%増、長野県の同42.6%増と続く。一方、減少率では、秋田県の同21.5%減を筆頭に、岐阜県が同13.8%減、徳島県が同13.5%減の順。香川県は前年と同数だった。
 地区別では、北陸を除く8地区で増加した。増加率トップは、中部で前年比19.9%増(2,111社)。次いで、近畿が同18.0%増(3,336社)、関東が同16.4%増(1万5,453社)と続く。

 2017年の新設法人数は13万社を超え、調査を開始した2007年以降で最多記録を更新した。法人格別にみると、「合同会社」だけが年々増加し、他の法人格は伸び悩んでいる。
 2017年の「合同会社」の急増は、不動産やFX、仮想通貨の個人投資家が節税対策の一つとして活用したことが背景にあるとみられる。
 だが、シェアハウスのサブリース問題で銀行の不動産融資は厳しくなっている。また、仮想通貨も不正アクセスによる流出事件を契機に、交換業者やみなし業者への業務改善命令が相次ぎ、相場も乱高下を繰り返している。このため、今後は個人の不動産・仮想通貨への投資意欲が減退し、「合同会社」の新設数への影響も想定される。
 「合同会社」は他の法人格にはない、設立の手続きが簡便で、安価に設立でき、経営の意思決定が迅速というメリットがある。こうしたメリットが浸透すれば節税効果に依存せず、資金力が乏しくても創業支援の後押しを受け新規立ち上げに活用される可能性が残っている。
 日本の「合同会社」のモデルとなった米国の「LLC」のように、パススルー課税(法人税がなく、出資者の所得税のみが課税される制度)の適用も、開業率アップへの検討課題かもしれない。
 政府の成長戦略である「未来投資戦略」は、開業率を欧米並みの10%を目標に掲げている。ただ、税金対策での乱立は本末転倒だろう。「イノベーション・ベンチャーを生み出す好循環システム」という本来の目的からも乖離してくる。
 今後、「合同会社」はメリットを生かして、すそ野を広げた地域経済の活性化への貢献が求められる。新設企業が実需と雇用を生み出し、経済活動に携わるには、時間的な猶予と同時に、サービス業や製造業、建設業など、幅広い業種での設立誘導が必要だろう。

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