金属行人(8月21日付)

 山本有三の戯曲「米百俵」でも知られる新潟・長岡は、幕末の戊辰戦争で大きな犠牲を払い、太平洋戦争でも空襲で焼かれた。花火大会は有名だが、やはり戦争の犠牲者を悼むという理由がある。小林虎三郎、河井継之助、山本五十六などの英雄も多く、人材をいかに見事に育てているかが分かる▼鉄鋼業界でも「人材育成」の大切さが話題になる。「働き方改革」という言葉も巷を闊歩する。しかし、その中身は何だろうか。人を育てることの本質とは。長岡を訪れ、その地で活躍する若手鉄鋼人や経営者と言葉を交わしながら、はたと手を打った。「長所を伸ばし、短所を補う」ことではないかと▼新潟県鉄鋼販売業連合会の若手懇親会。笑顔で各人が挨拶する。「自分の持ち味はこれだ」という具合に。そして懇親する、そこで自分の足りない部分に少しずつ気付いていく。それを繰り返す。テキストなどない。そこにたどり着くまでの知識として書籍の類いは参照するが、知恵は現場から学ぶ。会活動を支えるのは幹部の努力と組織の「団結」だ▼三根山藩から贈られた「米百俵」は約270両のお金に換えられ、学校の書籍代となる。将来に役立つ人材教育は、実学だけでなく「徳育」という魂を吹き込まれてこそ生きる。長岡の地でそんな感慨を覚えた。

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