これだけ苦しんでいるのは不思議? ホークス武田の不振の要因を数字で探る

ソフトバンク・武田翔太【写真:藤浦一都】

なぜ武田は“スランプ”なのか、セイバーメトリクスの指標も細かく見ていくと…

 ソフトバンクの若き右腕、武田翔太投手が苦しんでいる。2015年から2年連続で2桁勝利を挙げ、2017年のWBCのメンバーにも選出されるなど侍ジャパンの常連にもなっていた武田は、昨季も故障がありながら6勝を挙げて日本一にも貢献。ホークスが誇る先発陣の一角として、チーム内外から非常に高い評価を受けていた。しかし、新たに背番号「18」を背負った今季は前年までとは別人のようなピッチングを繰り返しており、スランプ脱出の気配すら見えてこない状況だ。

 とはいっても、今季のピッチングも5月中旬までは決して悪いものではなかった。開幕からの4試合で2度のQS(クオリティ・スタート、6回以上投げて自責3以下)を記録し、5月5日のオリックス戦と5月13日の日本ハム戦では2試合連続完封の快投を演じてみせた。この時点での成績は2勝2敗、防御率2.81。”変化”の兆候は見られなかった。

 ところが、5月20日のロッテ戦で5回7失点(自責点6)と崩れてから、武田投手の歯車が狂い始める。そこからの3試合は6回1/3を5失点、4回5失点、6回8失点(自責点4)と本調子とはほど遠い内容が続き、先述の5月13日を最後に2か月以上白星から遠ざかることに。そして迎えた7月18日の西武戦では2回7失点と大炎上するも、次の登板で今季3度目の完封勝利。しかし、直近の2試合はいずれも敗れている。

 今季の成績は17試合に登板して3勝9敗、防御率4.73。プロ入り以来シーズン負け越しを経験したことがなく、防御率もすべて3点台以下だった武田としてみれば信じられないような数字が並んでいる。なぜ、25歳にしてリーグ屈指の右腕となりつつあった好投手はこれほどまでに苦しんでいるのか。今回は武田の成績をセイバーメトリクスをはじめとする指標によって分析し、不振の主要因について考察を深めていきたい。

数字面での不振の要因は?

 まず、守備などの運に左右されやすい要素を極力取り払い、奪三振、与四死球、被本塁打といった要素を評価することで、防御率等と比較した際により純粋な投手の能力を表しているとされている指標の「FIP」について見ていきたい。

 武田が今季残しているFIPは3.817。防御率(4.73)よりも1点近く優れた数値となっており、実際の投球内容は防御率から来るイメージほど悪化しているわけではないようだ。

 次に、四球ひとつに対してどれだけ三振を奪えるかを示す指標であり、FIPと同じく運に左右されにくく投手の投球内容を表しやすい数値とされている「K/BB」を見ていきたい。

 武田が今季記録しているK/BBは2.64であり、優秀とされる3.50には及ばないものの、そこまで悪い数値でもない。投球内容を示す2つの指標が及第点を下回るレベルにまで悪化しているわけではないことから、武田の純粋な投球内容が極端に悪化したわけではないことがうかがえる。

 次に、本塁打を除くグラウンド内に飛んだ打球がヒットとなる確率を表す指標であり、一般的に運に左右される部分が大きいとされるBABIPについて見ていきたい。

 武田が今季記録しているBABIPは.300と平均値にあたる3割という計測結果が出ている。しかし、2回7失点と大乱調だった7月18日の登板以前の数値は.288と平均値を下回っており、運が悪いどころかむしろ運に恵まれていたという結果となっていた。

 BABIPは長いスパンで見れば平均値の3割近辺に収束していくとされており、現在も平均値に位置している以上、他の指標を参照することで改めて武田の運について考えていく必要がありそうだ。

 そこで、出塁した走者に得点を許さなかった割合を示す値であり、BABIPと同じく運の要素が大きく絡むとされている「LOB%」という指標を確認していきたい。

 武田が今季残したLOB%は.616と、平均値である.700~.720を1割近く下回る数値となっている。昨季の値が.759と平均値をやや上回っていたことを勘案すると、今季の武田が運に恵まれていないことがこの指標によってより鮮明に浮かび上がってくるのではないだろうか。

これだけ苦しんでいるのが不思議といえるような内容

 ここからはセイバーメトリクスからいったん離れ、より平易な指標について見ていきたい。まずは9イニングスあたりで何本のホームランを浴びる計算となるかを示す、「被本塁打率」について確認していくことにする。

 武田は昨年も13試合(71イニング)で10本塁打を浴び、被本塁打率1.268という数字を残すなど”一発病”の兆候が見え隠れしていた。そして、今季も17試合で10本塁打を喫して被本塁打率は0.909と、こちらは改善されているが、昨季は13試合で6勝4敗、防御率3.68と先発投手として十分な成績を残していただけに、失点が増えている理由は他にもあると考えるのが妥当だろう。

 そこで、本塁打ではなく安打を打たれた割合を示す「被打率」も見ていきたい。武田の今季の被打率は.234と、優秀とされる2割台前半の範疇に収まっている。また、四球を与えた割合を示す「与四球率」も2.54と、昨季の4.18から大幅に改善されている。昨季は5つ与えた死球も今季は1となっており、ランナーを出す割合はむしろ減少しているようだ。

 最後に「QS率」を確認していきたい。武田は今季17試合に先発したが、そのうちQSを達成できたのは6度のみ。QS率は35.3%で、3回に1回しか試合を作れていないという計算になってしまう。武田がわずか3勝にとどまっている要因のひとつは、この数値にあると言えそうだ。

 以上のように、LOB%やQS率の悪さこそ目立つものの、総合的な投球内容自体は悲観するほど悪くはないという数値が出ている。運に恵まれていない点が成績の悪化につながっている面もありそうだが、セイバーメトリクスの観点からの評価としてはこれだけ苦しんでいるのが不思議といえるような内容となっている。

 1年目から1軍のマウンドを踏み、若くして常勝軍団の主戦投手へと成長。順風満帆なプロ野球人生を送っていた武田が突如としてはまってしまった落とし穴は、今後のさらなる成長を促す触媒となるか。投球内容自体はそう悪くないという分析結果が残っているだけに、再び1軍の舞台で勇躍を見せてくれる可能性も決して低くはないはずだ。武田はプロ入り後初めてとなる大きな挫折を乗り越え、この経験を糧により一回り大きくなった姿をこれから披露してくれるだろうか。(「パ・リーグ インサイト」望月遼太)

(記事提供:パ・リーグ インサイト)

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