記憶伝承へ折り鶴 悲劇知るきっかけに 横須賀

 神奈川県横須賀市の市民グループが、市民に鶴を折ってもらい、被爆地・広島に届ける活動に取り組んでいる。「73年前に何が起きたのか、知るきっかけにしてほしい」と、理容室や整体院など市内9カ所に折り紙と回収ボックスを置き、待ち時間に制作してもらっている。これまでに2万羽が集まり、うち3千羽を平和記念公園(広島市中区)に奉納。掲げる目標は、10万羽だ。

 7月下旬の夜。横須賀市内の飲食店で、市民が折ったテーブルいっぱいの鶴を同じ色に分ける作業が行われていた。

 広島に折り鶴を届ける取り組みをしているのは、タクシー運転手の加藤和之さん(47)=同市鴨居=が代表を務める「ピースネットワーク・横須賀orizuru」。加藤さんは6月から、高齢化する被爆者に代わって体験を語る「伝承者」になるため、広島市内で研修を受けている。

 研修に参加を申し込む以前から、「悲惨な記憶が途絶えたとき、日本はまた絶対に戦争を起こすのでは」との危機感を持っていた。頭に浮かんだのが、平和記念公園に飾られた折り鶴。「鶴を折ることで、平和について考えてほしい」と考え、市民に折ってもらい、研修などで広島に赴くのに合わせて奉納することにした。

 加藤さんは31歳で指定難病の「先天性血液凝固因子障害」を発症。40歳で左太ももの半分から下を切断した。現在も生活には義足と車いすが欠かせない。「自分が今ここにいるのは医師や看護師ら、いろんな人が支えてくれたから」との思いが活動を支える原点だ。加藤さんは「せっかく生きているんだから何かやらないと。次倒れたら社会貢献なんてできないんだから」と意を強くしている。

被爆地に折り鶴を届ける活動を始めた加藤さん=横須賀市

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