予選15番手から5位入賞。大嶋の『ミディアム1周捨て』作戦から見えるSFの戦略の複雑さ

 スーパーフォーミュラ第5戦もてぎ、大嶋和也(UOMO SUNOCO TEAM LEMANS)は予選15番手から決勝5位入賞という大浮上を成し遂げた。1周目にピットインしてミディアムタイヤを“捨てる”大胆な作戦を最大限うまく機能させる快走で、鮮やかに10ポジションアップを果たしている。

 全戦でソフト&ミディアムのドライ用タイヤ2スペック制が実施されている今季のスーパーフォーミュラでは、チームによって得意なタイヤと苦手なタイヤが生まれる傾向も散見される。

 なかでも大嶋とトム・ディルマンを擁すUOMO SUNOCO TEAM LEMANSはソフト得意傾向が強く感じられる陣営だ。これは2戦だけ2スペック制が実施された昨年の段階からこのチームがもっている強みであり、同時に課題でもある。

 言い変えればミディアムでの感触がもうひとつなわけで、実際に今季、彼らは予選Q1のミディアム限定使用ルールに苦しめられている。予選で前のグリッドを得るのが難しいチーム状態にあることは否めないシーズン展開となっているのだ。

 もちろんミディアムでのパフォーマンスアップもチームは重要視しており、特に今回のもてぎ戦では当地初レースのディルマンがQ2進出を達成、15位だった大嶋も「ブレーキの問題が出なければQ2には普通に行けたでしょうし、Q3に行ってうまくすれば5位あたりもあったかもしれない」(片岡龍也監督)という前進をチームは感じ取っていた。

 ただ、結果として大嶋のグリッドは15番手。抜けないもてぎでここからどう浮上するかを陣営は考え、最終的に選んだのが、少々表現は良くないが“ミディアムを1周で捨てる”作戦だった。

 ドライ時は両スペック使用義務が発生する決勝レースでは、ピットストップ1回で給油&タイヤ交換というのが今季の王道戦略。1周目のピットインでは燃費的な要件を満たせないので必然的にもう1回ピットに入ることになるが、スタート時にミディアムを履いておけば、1周目のピットインでソフトを履き、2回目のピットで給油とソフト→ソフトのタイヤ交換をしてゴールまで、という絵図が描ける。

 つまり、もてぎで大嶋車が採った変則2ストップ作戦は、燃費的な意味では実質1ストップ、ほぼソフトのみ使用する実質1ストップ作戦ともいえる内容のものであった。

 得意なタイヤ、しかも速い方のタイヤでレース距離のほとんどをカバーできるメリットがあり、しかもクリーンな空間で走れる時間が拡大することも期待できる。もちろん1周目にタイヤ交換のみのピットインをすることで、新たに履いたタイヤのウォームアップタイムを含めると推定35秒前後を失うデメリットと引きかえではあるが、陣営はこの作戦を敢行、そして成功させたのである。

## ■片岡監督「理想通り運べば4位獲得も可能だった」
 大嶋は38周目に2回目のピットストップへ。純粋な2ストップ作戦で2位となる平川亮(ITOCHU ENEX TEAM IMPUL)も含め、全車のルーティンピットが終わった40周目の時点で大嶋は8番手となっていた。既に予選順位からは7ポジションアップだ。この段階で全車の燃料搭載量は原則として同じだが、タイヤの種類とマイレージには違いがある。

 ソフトで、しかも比較的“若い”タイヤを履いていた大嶋は快ペースでの走りを続け、終盤10周で3台をコース上でパス、5位まで上がってゴールを迎えた。

 レース後、好走を讃えつつ「もうミディアムは要らないって感じですね?」と問いかけると、大嶋は笑いながら「まあ、僕としては(現状は)そうですね」。さらに「マシンの感触は良かったです。前の富士(予選13番手から決勝7位入賞)以上にいいレースができたと思います」と、充実の表情を見せた。

 実際、大嶋のペースは序盤から良かった。1周目のピットインの後、トップとの差が少しずつ詰まっていたのである。これは、という予感はタイミングモニターからも伝わってきていた。

 もちろんこの状況には、今回のレースでクルマの力が他の18台とは一段違うレベルの仕上がりにあったウイナー、石浦宏明(P.MU/CERUMO・INGING)がレース前半は1周目に素晴らしい“奪首”を見せた松下信治(DOCOMO TEAM DANDELION RACING)に抑え込まれる格好になっていたことの影響もあっただろう。ともあれ、ソフトを履いた大嶋のペースは間違いなくトップレベルにあった。

 片岡監督は「レース中の分析で、すべて理想通りに運べば4位まで見えていました」と語る。しかしながら、そこは相手があるスポーツ、そうそう全部がうまくはいかない。

 最大の難所は関口雄飛(ITOCHU ENEX TEAM IMPUL)に追いついたレース中盤の局面だった。だが、ここでもそれほど長くはロスせずに大嶋はコース上でオーバーテイクしてみせる。「あれが今日のハイライトでしたね。あそこではまっていたら、もっと後ろの順位で終わっていたかもしれません」(片岡監督)。

 終盤の入賞圏でのオーバーテイク連発も大嶋は見事だった。抜かれた1台、山下健太(KONDO RACING)も当時は自身がミディアムで走っていたとはいえ、「大嶋選手は速かったですね」と苦笑していたほどで、傍目にはイージーな状況にも見えた。

 だが、大嶋本人は「いやいや、簡単じゃないですよ。いくら(タイヤ的に)ペースが違っても、もてぎで抜くのは難しいですから。相手だって当然、意地を張ってきますからね」と語る。いずれにしても素晴らしい走りだった。作戦による大浮上劇と見られがちだが、ドライバーの力あってこその作戦成就である。

## ■やはり理想は“予選で前”
 もちろんUOMO SUNOCO TEAM LEMANSが作戦計画能力を含めたエンジニアリング力を強化しているのも事実だ。昨年から外国人エンジニアを複数名、前面に押し立てるなどして、そこが注目されてもいたが、山田健二さんの急逝という出来事もあった今季、陣営はさらなる補強も続けている。

 ここ数戦は、フォーミュラ・ニッポン~スーパーフォーミュラのみならず海外での経験も豊富なベテラン、加藤博エンジニアの姿も陣内に見られる。監督、ドライバーを含めた皆の知恵の出し合いが、大嶋とディルマンの決勝での順位上昇力をサポートしているのも間違いない。

 しかしながら、やはり理想は予選で前、である。後ろから追い上げるレースには、どうしても不確実性が伴い、大嶋にもディルマンにも不発に終わるケースが幾度かあるのが実状だ。

 ピットロードでのロスタイムが短いこともあってもてぎではうまく機能させられた今回の大嶋車の作戦も決して万能ではないし、表彰台までは見えてこなかったのも現実。「5位で満足していちゃいけませんからね」(片岡監督)「次の岡山は予選から上位に入りたいです」(大嶋)。予選で上位に入ると奇抜な作戦は採りにくくなるかもしれないが、残り2戦、前から出て戦う彼らの姿も見てみたい。

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