「サッカーコラム」ぶざまな失点を招いた状況判断のなさ アジア大会、ベトナム戦で見えたU―21日本代表の問題点

日本―ベトナム 前半、先制を許したGKオビ(右)と原=チカラン(共同)

 相手チームのストライカーが背中を向けて、攻撃の足がかりとなるクサビの縦パスを受けようとしている。守備側の選手が狙うのは、まずインターセプト。次にトラップが乱れた瞬間のボール奪取だ。これは戦術やフォーメーションがいかに進化しようとも、昔から変わることのないサッカーの普遍的な原則と言って良い。当然、この「当たり前」を知らない指導者はいないだろう。

 ところが、「常識」であるはずのこの原則を指導者が選手たちに伝えていないことがあるようだ。育成年代の選手たちに「サッカーの常識」を伝えられない指導者がいたとすれば、その指導者は何を教えようとしているのだろう。

 インドネシアの首都ジャカルタで行われているアジア大会。ともに勝ち点6で、得失点差でも並ぶ日本とベトナムの一戦が8月19日に行われた。勝った方がグループDの1位通過が決まる試合だったが、決勝点は予想もしないようなぶざまな形で決まった。

 なんでそんなことをする必要があるの…。

 少しでもサッカーの知識があれば、誰もがそう思うようなことを、U―21代表とはいえ、「日の丸」をつけた選手がやるのだから、日本の育成年代の常識はサッカーの本質からズレているに違いない。

 それは試合開始直後の前半3分に起こった。立田悠悟からのバックパスを受けたGKオビ・パウエルオビンナがペナルティーエリア正面に戻ってきた神谷優太に縦パス。しかし、状況は前述したようなストライカーに対する守備側のシチュエーションとまったく同じだ。ベトナムのトアンとハイの2人が、猛烈にプレスをかけてきたことを神谷も背中で感じたのだろう。圧力からかトラップが乱れたところをトアンに奪い取られ、最後はハイにゴールを許した。

 0―1の敗戦。この失点の場面における責任はゴール前でミスをした神谷にある。だが、もっと責められるべきはGKオビのあまりにも希薄な危機管理能力だろう。オビは流通経済大学所属。立場がアマチュアなので、厳しいことは書きにくい。それでも、これだけは言える。アンダーカテゴリーとはいえ、日本代表のユニホームを着る以上は責任というものがあるのだ。

 しかも、ベトナムは立ち上がりから、激しいプレスをかけてきた。その状況のなかで、ゴール前でボールを奪取されることが即失点につながりかねないのは明らか。それゆえ、背後の視野が確保できない選手にパスを出すことはあり得ない、ナンセンスなプレーだ。もし、グループEで韓国が1位通過していたら、決勝トーナメントで「日韓戦」だった。その意味で、この失点と敗戦の責任の多くはオビにあるといえるだろう。

 オビはJFAアカデミー福島の出身だという。Jクラブのユースチーム所属の選手もそうなのだが、高校などに比べると恵まれている環境で育成された選手といっても、全員が試合の展開に即した判断力を備えているとは限らない。指示されたことしかやらない選手も少なくないのが事実だ。“教えられ過ぎ”の弊害が出てきているのかもしれない。サッカーで本当に優れているといえるのは、状況に合わせて最適な判断を下せる選手だ。

 本家のバルセロナ(スペイン)や、同チームのOBで監督も務めたグラウディオラが率いるマンチェスター・シティー(イングランド)を筆頭に、いわゆる「クライフ流」を受け継ぐチームは、必ずといっていいほど足でのボール扱いに優れるGKを重用している。確かにGKの足元のテクニックが巧みなことに越したことはないだろう。しかし、相手のハイプレスが当たり前になっている状況で、日本のGKがそこまで足でのフィードにこだわる必要があるのだろうか。日本で最も足技が巧みだといわれているJ1浦和の西川周作でさえも、シーズンに何点かは足でのコントロールミスを狙われ失点を喫している。プレッシャーがない状態ならまだしも、相手がプレスをかけてくるなかで、わざわざボールを足で扱う必要はない。GKは失点を減らすことが一番の役割であって、自ら失点のリスクを高めるプレーをする必要はないのだ。

 それにしても今回のU―21日本代表は、迫力に欠ける。スマートな選手が多いのだろうが、試合展開を自ら支配しようとする選手が見当たらない。これもJクラブの下部組織出身者がメンバーのほとんどを占めることによる弊害なのだろうか。うまい選手が集まれば、自分の役割だけをこなせばいい。でも、それではリーダーは生まれない。それが今回のチームだろう。

 過去の日本代表の中心選手は、ほとんどが高校サッカーの出身者だった。中田英寿、中村俊輔、小野伸二、小笠原満男、遠藤保仁、長谷部誠、本田圭佑…。Jユースチームとは違い、高校のチームにはメンバーにばらつきがある。だから、エースと呼ばれる選手は、自らの判断で攻守のすべてをこなさなければならなかった。当然、試合の展開を読む目も養われる。つまり、どんなプレーを選択するべきかが分かってサッカーをしていた。ところが、今回のアジア大会ではそんな選手がいない。それゆえ、状況に合わせたサッカーができていない。

 ただ、今回のチームには運だけはありそうだ。最強チームを組んだ韓国がまさか、2位でグループを通過するなんて、誰も思わなかったことだ。

岩崎龍一(いわさき・りゅういち)のプロフィル サッカージャーナリスト。1960年青森県八戸市生まれ。明治大学卒。サッカー専門誌記者を経てフリーに。新聞、雑誌等で原稿を執筆。ワールドカップの現地取材はロシア大会で7大会目。

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