渋谷で「昆虫アイス」を食べ、持続可能な食の未来を考える

規格外の廃棄野菜や食用の昆虫などを使ったアイスを食べ、持続可能な食の未来について考えてもらうイベント「バグズ・アイス」が東京・渋谷のファブカフェで8月4日から9月3日まで開催されている。「食品産業は食品ロスから環境問題まで幅広い課題を抱えている。持続可能なアイスを通して、そうした課題を考えるきっかけをつくりたい」と話す、料理人でイベントを主催する松山喬洋さんに話を聞いた。(サステナブル・ブランド ジャパン=橘 亜咲)

「あっ、ふつうに美味しい」――。アリの成虫とさなぎがトッピングされ、西洋バッタのパウダーが練り込まれたアイス「バグズ アイス」を恐る恐る食べてみた。「向日葵の想い」と題したアイスは、ひまわり蜂蜜やオレンジピール、エルダーフラワーで味付けられ、ほのかな香ばしさの後に爽やかな甘さがつづく。松山さんが「味覚の構成を複雑にした」というだけあって、味が単調でないため飽きが来ない。初めて味わう食感のおもしろさも手伝って、虫であることを忘れ、「もうひと口」とスプーンがすすむ。 

昆虫食は、世界の人口増加に伴う食糧危機の解決策として、国連が推奨するものだ。昆虫には良質なたんぱく質と微量栄養素があり、栄養補助食品としての役割も期待されている。さらに、家畜に比べて二酸化炭素の排出量や水の使用量が少なく、環境負荷も低い。昆虫採取という新たな雇用の創出にもつながると考えられている。

「実は、今回のイベントを開催するまで昆虫を料理したことも食べたこともなかった。『バグズ アイス』を食べ、昆虫食が必要とされる背景について考えを巡らせてもらいたい」と松山さんは話す。

現在、32歳の松山さんは、表参道ピエール・エルメ・パリで料理人としてのキャリアをスタートさせた。ピザに魅せられイタリア料理の道に進み、イタリア料理店で働いた後、渡伊。イタリアの名店で修行した。社会課題に関心を持つようになったのは、伝統的な食文化や食材を見直す運動『スローフード』の発祥の地、イタリアで暮らしてから。帰国後は日本のレストランで料理長を務めた。現在は、商品開発や店舗プロデュースのほかに、イノベーションを通じた社会課題の解決や未来変革を目指す「食の社会彫刻家」として活動する。

「イタリアでは『世界のベストレストラン』に選ばれる名店の料理人たちが廃棄予定の食材を使い、ホームレスや貧困家庭の子どもたちに無料で料理を提供する活動をしている。日本の飲食産業はまだ受け身なところがある。『料理』『食』というフィルターを通して、自らが発信し、人々の好奇心を揺さぶり、これまでの消費のあり方を変えていきたい」(松山さん)

10年後の食のスタンダードを体験して欲しい

松山さんは「より多くの人に食べてもらうためには、『美味しい』ことが大事」と味にこだわる。今回のイベントでは「バグズ アイス」のほかに、廃棄予定の野菜を使った「ビーガン アイス」、人が健康を維持するために必要な1食分の栄養素がすべて入った完全栄養食を使った「パーフェクト アイス」も提供している。

「エゴイスト」と題したビーガン アイスは、アボカドやココナッツミルク、メープルシロップを使ったジェラートに、色鮮やかな廃棄野菜のチップスと9種類の国産廃棄野菜のパウダーがかかっている。日本だけで食品廃棄物の量は年間2842万トン(平成30年4月環境省)、食べられるのに捨てられた食品ロスの量は646万トンに達するという現実について目を向けてもらいたい狙いだ。

「パーフェクト アイス」は「現代版 侘び寂び」をテーマに、現代の多様化する生活のなかで生じる肥満や生活習慣病、途上国での飢餓や栄養失調といった問題を考えてもらうため、国内メーカーがつくった完全栄養食COMPやこんぶ茶、わさびなど和の食材を使い仕上げた一品だ。単品は税込550円、3種セットは税込1500円。

松山さんは「アイスが完成するまでに1ヶ月を要した。使い慣れない食材の調達は簡単ではなかった」と振り返り、「昆虫食や廃棄野菜、完全栄養食は10年後には食の選択肢としてスタンダードになっているだろう。未来のアイス、未来の食のスタンダードを食べてもらい、持続可能な食のあり方を考えるきっかけになれば」と話す。イベントは折り返し地点を回り、「反響はいい」という。1日20―30食出るアイスの中で一番人気は「バグズ アイス」だ。

イベントが開催されているFabCafe Tokyo
東京都渋谷区 道玄坂1-22-7道玄坂ピア1F

松山喬洋さんのFacebook 

© 株式会社博展