教えを説かず心に寄り添う 県内唯一の「臨床宗教師」 被災地で「傾聴」の必要性 痛感

 苦悩や悲嘆に暮れる人たちに対し、教えを説くのではなく、ただ耳を傾ける-。布教や伝道を目的とせず、被災者や遺族、終末期の患者らの心に寄り添う専門職「臨床宗教師」が今年3月に認定資格となった。長崎県内で唯一、その資格を持つ看護師で僧侶の宮村妙洋(みょうよう)さん(66)=大村市杭出津3丁目=は、8月に岩手県の被災地から戻り、地元で活動の場を広げようと模索している。
 宮村さんは東日本大震災後の2012年4月、僧侶で心療内科医の夫通典さん(72)とともに「未曽有の災難を受けた人たちのお手伝いをしたい」と、被災地の岩手県大槌町に移住。休日は夫と一緒に、被災した寺に通った。全国から集まった僧侶たちと被災者の供養に立ち会う中、泣きながら手を合わせている遺族たちの姿が脳裏を離れなかった。
 自身も看護師として40年以上の経験がある。これまでにもたくさんの患者をみとってきたが、同時に「人はなぜ死ぬのか。残された家族はどうなるのか」という患者の精神的な悩みには対応できずに「無力感」も感じていた。
 被災地の仮設住宅をボランティアで訪れると、「ご飯が喉を通らず外にも出られなかった」と話してくれた人もいた。こみ入った話は聞かなかったが、傾聴活動の必要性を痛感。「被災者の苦悩に手を差し伸べたい」という気持ちが強くなり、3年前に僧侶となった。その後、臨床宗教師を志し、東北大で宗教間対話や遺族への心理的支援をする「グリーフケア」、傾聴スキルなどの研修を受け、今年3月に資格を取得。同期には仏教、キリスト教、神道などさまざまな信仰を持つ宗教者がいるという。
 県立大槌病院に勤務していた夫の通典さんは7月末に退職し、福島県南相馬市に活動の場を移した。宮村さんは、1人帰郷。今後は、臨床宗教師として大村市を拠点に活動したいと考えている。全国的には病院や医療施設での雇用が始まっているものの、県内ではまだまだ認知度が低い。それでも需要は確実に増えていると感じている。「まずは臨床宗教師がどんな活動かを知ってもらいたい」。そう言って柔和な笑みを浮かべた。

◎ズーム/臨床宗教師

 被災者やがん患者らの心のケアを医療機関、福祉施設などの公共空間で行う宗教者の専門職。相手の価値観を尊重し、布教や伝道はしない。東日本大震災で宗教・宗派を超えた宗教者の有志が協力して犠牲者の追悼や遺族のケアに当たったことをきっかけに東北大で養成が始まり、龍谷大、武蔵野大、上智大など全国11の大学に広がった。今年3月に日本臨床宗教師会の認定資格となり、146人が取得している。

臨床宗教師として地元を拠点に活動を模索している宮村さん=大村市内
臨床宗教師の認定授与式に集まった同期の仲間たち=東京都、上智大四谷キャンパス(宮村さん提供)

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