複雑さを極めるウェブ広告 見えない流路と広告詐欺

By 中瀨竜太郎

前回の記事では、「儲からないウェブ」におけるごく少数の限られた勝ち組の一つとしてのGoogleやヤフーといった大手ディストリビューターの存在、そして彼らに収益やブランドの主導権を奪われているメディア事業者という構図を紹介しました。ウェブにはもう一つ、勝ち組がいます。


 勝ち組のもう一つは、「広告枠を膨大に収集したうえで、広告主に切り売りする」事業者です。アドテク(Ad Technology)事業者などとも言われ、これもまた、日本でいうとGoogleやヤフーがそのわかりやすい代表例です。

 ユーザーは、Googleやヤフーに代表される大手ディストリビューター、コンテンツアグリゲーターを情報消費の起点とし、そこからあちこちのウェブサイトのページに“たまたま”出没するような行動をとっています。そうした数えきれない無数のウェブページの無数の広告枠を取り扱うことは、広告主にとっても広告代理店にとっても極めて困難です。その結果、「アドネットワーク」「アドエクスチェンジ」というかたちでウェブサイトの広告在庫を"ミンチ肉"化して販売するアドテク事業者が力を持っています。
 メディア事業者からすれば、アドテク事業者は「広告在庫を全部手売りするコストをまったくかけずに、効率的に収益をもたらしてくれる存在」です。また、彼らは膨大なウェブサイトを横断して広告枠を取り扱うことでユーザーの行動データを捕捉でき、そこからユーザーの性別や年齢層、趣味といった属性を高い精度で推計することが可能となっており、メディア事業者は自サイト訪問者に能動的に属性情報を登録させなくても、その姿をGoogle Analyticsなどを通じて垣間見ることができます。

 ただ、そのようにウェブサイト横断で広告在庫規模を確保し、手数料から高い収益を上げて、ユーザーデータを握ろうと目論むさまざまな事業者が多重的に参入していることで、広告売買のシステムは複雑化しています。結果として、「漫画村問題」でも明らかになったように、広告主とメディアが悪意なく犯罪に加担してしまっているようなケースも起こっています。

特に問題になるのは、ネット広告の仕組みや、それを販売する広告代理店、そしてそこに広告を出稿している広告主が、その海賊版サイトの共犯者になってしまうことが起こっているという点です。

広告主は今、複雑化している広告配信システムのなかで、「どこに自分の広告が出ているのか」すら把握できていない状況に陥っています。どこに出たかも、どの程度見られたかもわからない広告に対してお金を払っているケースも多々あり、「アドフラウド」「ドメインスプーフィング」のような広告詐欺にもメディアとともに見舞われています。

 現在のウェブ広告の配信は、それを構成するすべてについてそのすべてを理解している人というのはほとんどいない、と感じられるほど複雑です。

 たとえば、一般的な常識としては、CPC入札広告はCPC入札の通りに(つまり、クリックされることではじめて)メディア側に支払われると考えられてきました。しかし、それは現在ではどうやら誤った知識のようです。RTBを仲介するSSP事業者が、過去のCTR実績などをもとに妥当な見込み値を算定し、CPC入札の広告であっても「クリックされなくてもメディア側が収益を得られる」ように支払っているというのです。
 メディア側にしてみれば、「0クリックだから売上0円」になるリスクを回避できているという点ではメリットがありますが、SSP事業者はその差配により自らが損をかぶるわけにはいきませんから、なんらかのヘッジがなされており、そのヘッジ分はメディアが金銭的にかぶっていると考えるのが妥当です。そこに悪意はないとしても、見込みと実態でどのような差異があり、どこで調整されたのかということはまったくクリアになっていません。

 メディアは、ウェブサイトを持つことで複雑化に自ら加担し、その結果としてこのように不透明でクリーンさに欠けたブラックボックス的な商流のなかで、PVを生むことも、生まれたそのPVを換金化することも“他人任せ”で生きていると言えます。

© ノアドット株式会社