D’station Racing 2018鈴鹿10時間 レースレポート

D’station Racing
Race Report 006 − 2018.8.29

THE 47TH SUMMER ENDURANCE
SUZUKA 10 HOURS ENDURANCE RACE

August 24 − 26 2018

2台体制で迎え撃った世界との戦い

悔しい結果も多くの収穫をつかむ

 2018年1月にドバイ24時間に挑戦し、世界との戦いを展開したD’station Racing。今度は日本屈指のドライバーズサーキット、鈴鹿を舞台に世界を迎え撃つことになった。2017年までSUPER GTの一戦として行われてきた鈴鹿1000kmが、新たに10時間の『第47回サマーエンデュランス 鈴鹿10時間耐久レース』として生まれ変わったことから、D’station Racingではこのイベントに、チーム創設以来初となるポルシェ911 GT3 Rの2台体制で挑むことになったのだ。このイベントは、FIA−GT3規定のレーシングカーの“世界一決定戦”として位置づけられ、4カ国で争われる『インターコンチネンタルGTチャレンジ(IGTC)』の第3戦としても争われる。

 D’station Racingは、このレースに向けて強力な体制を敷いた。FIAドライバーカテゴライズの縛りがないPROクラスに、SUPER GTを戦うホワイトがベースの7号車D’station Porscheを投入。ドライバーは、ふだんドライブする藤井誠暢をエースにスヴェン・ミューラー、そしてバイザッハから2015・17年のル・マン24時間総合ウイナーであるアール・バンバーを招聘した。バンバーは鈴鹿は初めてながら、ポルシェ911 GT3 Rのことは熟知している。これ以上ない最高の助っ人を起用することになった。なお、7号車はIGTCのGT3マニュファクチャラータイトルを争うポルシェのエントリーの一翼を担っており、IGTCのステッカーが加えられた。

 そして、ふだんスーパー耐久を戦っているグリーンがベースのD’station Porscheが、77号車としてドライバーカテゴライズの制限があるPRO−AMクラスにエントリーした。ラインアップは星野敏と近藤翼というふだんドライブしているふたりに加え、カテゴライズの関係からニュージーランド人のジョノ・レスターを起用。クラス優勝を目指し戦うことになった。

 また、今回のレースはふだんと違うことも多い。タイヤはピレリ製のワンメイク。77号車はふだんから慣れているが、7号車にとっては事前の公式テストでこそトップタイムをマークしていたものの、あまり馴染みがない。また、ピットストップ時の作業方法、ピットイン時間、スタート方法等、日本のレースとは異なる規定がたくさんあるが、チームはしっかりと準備を整えてきた。

 レースウイークは8月23日(木)に予定された鈴鹿市内公道パレードから走行が始まり、26日(日)に開催される10時間レースまでの長い戦い。日本のふだん戦うライバルはもちろん、海外からはGT3レースの強豪と言われるチームが多数参加しており、相手にとって不足はない。D’station Racingの熱い夏がやってきた。

7

D’station Porsche

Tomonobu Fujii / Sven Müller / Earl BamberPractice − Qualify

 走行前日からサーキット入りした藤井、ミューラー、バンバーの3人は、サーキットの雰囲気を楽しむ間もなくミーティングを行い、バンバーはさっそくD’station Porscheのシートに座り、その感触を確かめる。ポルシェワークスドライバーは世界中でこうしてチームを手助けしていることもあり、溶けこむのも早い。

 ただ、一夜明け迎えた8月23日(木)だが、台風20号が四国に接近しており、荒天が予想された。一時は開催目前までいきながら、大雨警報が発令されたことから午前11時30分からの公道パレードは残念ながら中止に。午後4時15分からの特別スポーツ走行1から、本格的な走行のスタートとなった。時折強い風雨が舞う2時間の走行で7号車D’station Porscheは35周をこなしたが、そのなかでもチームに驚きをもたらしたのはバンバーだ。初めての鈴鹿、そしてウエットながら、2分16秒945というタイムをポンと出してきたのだ。チームの士気を上げるのには十分なインパクトを残した。

 明けて8月24日(金)は、午前9時40分からの特別スポーツ走行2で幕を開けた。台風も過ぎ去り、走り出しこそ湿った部分があったものの、すぐにドライコンディションに転じた。待ちに待ったドライでの走行で、3人のドライバーはピレリタイヤを試していくが、タイムは3人とも近いものの、前日から感じられていたオーバーステアの症状がひどい。14番手ではあるが、上位とはわずかに差がある。

 続く午後1時50分のフリープラクティス1からはいよいよ公式セッションとなったが、オーバーステアはますますひどい。藤井がステアリングを握りコースインするが、あっという間にS字でリヤが出て、まさかのスピンオフを喫してしまった。幸いにもリヤを小破しただけでピットに戻れたが、S字は藤井ほどのドライバーがコースアウトするような場所ではない。他の日本勢も同様だったが、オーバーステアは深刻だった。

 幸いにもそのセッション中に車両の修復がかない、バンバーがコースインするも、2分04秒942というベストタイムで23番手。その後、午後6時30分から行われた夜間走行のフリープラクティス2では、2分04秒901で17番手につけるも、7号車のオーバーステアは収まっていなかった。

 8月25日(土)は予選日だ。ただし国内の他のレースとは異なり、ノックアウト形式の予選のみが行われる一日。予選はノックアウト形式だが、今回は15分間ずつそれぞれ3人のドライバーがアタックし、合算したタイムでQ2進出車両を決定。Q2は20台のシュートアウトとなった。

 まずは藤井がアタックに向かうが、やはりオーバーステアが厳しい。それでもまずは2分04秒492を記録し、18番手につける。藤井はすぐさまフィーリングを伝え、チームは続くミューラーのアタックへ向けて対策をうった。「良くなったね!」とミューラーは無線で感触を伝えると、2分04秒090を記録。11番手につけた。さらにミューラーも、今度はバンバーへ向けてアドバイス。これでさらに改良された7号車D’station Porscheは、2分03秒824までタイムを伸ばし12番手に。タイム合計12番手で、見事Q2進出を果たした。

 規定により、Q2のアタッカーを務めるのはバンバー。抗議や計時再計算等もあり、当初予定から大幅に遅れたQ2シュートアウトだったが、バンバーは果敢にアタックを展開する。惜しくもフライングラップ時に、わずかに別の車両に引っかかってしまいロスをするが、2分02秒916までタイムを伸ばした。結果としては19番手と、少々不満の残るグリッドだが、「もしあとコンマ1秒速かったら9番手だ。レースに向けては悪くないと思う」とバンバーは僅差のなかでの順位よりも、ドライバー3人が力を合わせてのフィーリングの向上を喜んだ。

Race
 8月26日、いよいよレースは決勝日を迎えた。10時間レースということもあり、午前10時からのスタートと朝も早いが、午前中から気温が上がっていき、タフなレースが予想された。

 7号車D’station Porscheのスタートを担当したのはミューラー。今回はスタートも欧州式だが、ミューラーにとっては慣れたもの。序盤、#08ベントレーや#44メルセデス、さらに#00メルセデスや#66アウディ、#018 GT−Rといった日欧の強豪たちと競り合いながら序盤を戦う。

 このレースでは、規定時間を越えて走り続けることはできないため、必然的に各車のピットインタイミングは似てくるが、ミューラーは29周を終えてピットイン。藤井に交代する。ミューラーからのインプレッションも良好だ。

 46周目、#88ランボルギーニ、#17アウディらと競り合っていた藤井は、#88ランボルギーニを抜こうとヘアピンでアウトからオーバーテイクを決める。#88ランボルギーニがふたたびアウトから並んでこようという雰囲気を感じ取った藤井は、それほど厳しいブロックではないが、アウト側へラインを変えた。すると、#88ランボルギーニのフロントと藤井のリヤがヒットしてしまった。両車とも走行に支障はなかったが、この接触で藤井にはなんとドライブスルーペナルティが課されてしまった。

 藤井には少々厳しめのペナルティだが、起きてしまったことは仕方がない。幸いD’station Porscheのフィーリングは良好で、追い上げも可能。藤井はピットに戻り、バンバーと交代した。

 バンバーは順調に周回を重ねていたが、スタートから2時間42分、73周目に入っていたところで思わぬ光景がモニターに映る。ヘアピン立ち上がりで、7号車D’station Porscheが力なくコース上にスローダウンしている。D’station Racingの参戦から1年半、こんな光景は見たこともない。

 チームはなんとか再始動しようとバンバーと交信したが、打つ手はなし。原因は、デグナーカーブで縁石をまたいだ際にオイルパンを打ってしまい、油圧低下からのエンジンストップというもの。不運なトラブルで、チームはまさかのストップに複雑な表情を浮かべた。

 7号車D’station Porscheの挑戦は、まさかの結末で幕を閉じた。結果は残せなかったが、ふだん使わないタイヤ、アール・バンバーの起用、さらに他に4台が参加したポルシェ他チームとコミュニケーションをとりながらの戦い等、ふだんは体験できない経験を積むことができたのも事実。この経験を活かし、SUPER GTの残りシーズンでの好結果を狙っていく。

77

D’station PorscheSatoshi Hoshino / Tsubasa Kondo / Jono LesterPractice − Race

 星野敏/近藤翼/ジョノ・レスター組77号車D’station Porscheは、PRO−AMクラスからの参戦ということもあり、7号車とは異なるアプローチでこの鈴鹿10時間に挑んでいた。2018年モデルのポルシェ911 GT3 Rはフロントのダウンフォースが強力になった分、やや動きが敏感な部分がある。それを和らげ、直線スピードを稼ぐべく、規定で認められている2017年モデルのフロントパーツを使用したのだ。

 7号車同様、8月23日(木)の特別スポーツ走行1から積極的に走行を開始した77号車は、近藤が序盤、風雨が強くないうちに2分13秒417を記録。総合6番手/PRO−AMクラス2番手でセッションを終える。星野も10周、レスターも5周をこなし、まずはD’station Porscheでの初ドライブを果たした。ただ、7号車とは逆にアンダーステアの症状が出ていた。

 翌日、8月24日(金)は特別スポーツ走行2、さらに2回のフリープラクティスが行われたが、77号車は前日のアンダーステアを、7号車のデータ等を参考に解消。特別スポーツ走行2では、近藤が2分05秒561というタイムをマーク。プロ−アマクラス8番手につけ、さらにフリープラクティス1では2分04秒677というタイムをマーク。プロ−アマクラス5番手につける。さらに、夜間の走行では当初夜のドライブ予定はなかった星野が規定で義務づけられた周回をこなすと、近藤、レスターが周回を重ねることに。特に夜に速いのがレスター。第3ドライバーとして信頼に応えた。

 8月25日(土)は、酷暑の中で予選が行われた。77号車は、Q1で星野、近藤、レスターとそれぞれアタックを展開し、6分16秒674という合算タイムを記録する。ただ予選では多くのマシンがタイムを上げていたこともあり、20台(予選Q1時のトラックリミット違反をめぐり、最終的に24台に拡大)が出走できるQ2シュートアウトへの進出は叶わず。77号車は32番手/クラス8番手から追い上げを目指すことになった。

 迎えた8月26日(日)の決勝日。酷暑の中、午前10時からのスタートのときを迎えた。スタートドライバーを務めたのは星野だ。長丁場のレースということもあり、序盤は#112メルセデスらと競りながら周回を重ねていく。ただ、スタートから30分も過ぎ始めると、少しずつタイヤのグリップダウンが見られ始めた。

 それでも星野はきっちりと走り抜き、レスターに交代。さらにレスターも仕事をこなし近藤に繋ぐが、実は77号車D’station Porscheは、クールスーツがしっかりと動いていなかった。星野もレスターも、クールスーツが動いていることは確認していたものの、思うように冷えていない状態ながら走っていたのだ。ある意味ふたりの体力のすごさの証明でもあるのだが……。

 ステアリングを受け継いだ近藤は、今後のレースのことも考えチームに症状を伝えると、緊急ピットイン。ガレージで修復作業を行う。これでレースとしては大きく遅れてしまった。その後もクールスーツのトラブルは頻発してしまうが、77号車は粘り強く戦いを続けていく。

 大きく遅れてはしまったものの、77号車は暗くなった鈴鹿サーキットで、最後は総合28位/プロ−アマクラス9位でフィニッシュ。アンカーを務めたレスターは、マシンを下り笑顔でチームの健闘を讃えた。世界への挑戦という意味ではもの足りない部分があったが、それを星野、近藤が理解し、今後のキャリアに活かすことができれば、この結果は一気にその重みを増すはずだ。

佐々木主浩Kazuhiro Sasaki General Manager
今回は世界のライバルたちと戦う2台体制ということで、すごく楽しみにしていました。7号車は全体的に、トラブルもあってアンラッキーだったかもしれませんね。予選ではアタックラップでいいタイムが出ていたときに前のマシンに引っかかってしまったりしたので、そこからツキがなかったのかもしれません。一方で77号車はいろいろなトラブルもありましたが、それは次に活かし、今後トラブルがないようにしてもらえればと思います。今回はすごく暑くて、ドライバーたちもスタッフたちも大変なレースだったかもしれませんね。

武田敏明Toshiaki Takeda #7 Team Director
事前にピレリタイヤを履いてテストをすることもできましたが、路面温度やコンディションの違いもあり、走り出しは望んだフィーリングを得ることができませんでした。ただ、3人のドライバーの経験から得られるコメントによって、クルマを改良できたと思っています。レースペースも良かったのですが、不運なペナルティ、トラブルで終わったのは残念です。でも今回、海外勢とレースをできたこと、ポルシェファミリーの一員として戦えたこと、バンバー選手と戦えたことはとてもいい経験でした。SUPER GTにフィードバックできる部分も得られたと思っています。

藤井誠暢Tomonobu Fujii #7 Driver
決勝レースではトラブルのためリタイアになってしまいましたし、僕のスティントではドライブスルーペナルティもとられてしまいました。その点では全体的にはあまりいいレースにはなりませんでしたね。持ち込みの状態から少しずつクルマも良くなり、決勝でもペースは思っていたより良かったので、悔しいです。でも今回ピレリタイヤを履いてレースをしたことで足りない部分も分かりましたし、レースウイークの伸びしろはすごくありました。いい経験になったと思っています。まだSUPER GTのレースが残っているので、そこで結果を残したいです。

スヴェン・ミューラーSven Müller #7 Driver
レースウイークの最初は、ふだんSUPER GTで使っているものではないタイヤを使ったこともあり。セットアップですごく苦しんだんだ。でもチームの努力もあって、決勝のペースはすごく良かったと思うんだ。それだけにトラブルが起きてしまってレースを終えなければならなかったのは残念だよ。次はSUPER GTのSUGOでのレースだけど、3週間前にテストをして、初めて走ることができた。ハイスピードのコーナーも多くて、僕の好きなコースになったよ。だから今から楽しみにしているんだ。

アール・バンバーEarl Bamberr #7 Driver
全体的に見ると、最初はすごく難しい状態だったクルマを、チームが努力をして、レースまでにかなりいい状態にすることができたと思うんだ。チームの力は高いし、今回トモノブ、スヴェンというふたりと仕事ができて良かった。レースでは序盤からすごくいいペースで走ることができただけに、トラブルが起きてしまったことはすごく残念に思っているよ。でも、チームの力をみせることができたと思うし、この走りがチームにとって、今年残り3戦のSUPER GTのシーズンに役に立つことを願っているよ。

米山 昇Noboru Yoneyama #77 Team Director
レースウイークの最初はアンダーステアでしたが、予選では気温・路面温度の関係で今度はオーバーステアになるなど、難しかったですね。レースではリヤを安定させ、ウォームアップではそれを対策できていたと思います。レースではクールスーツのトラブルが出てしまい、苦しいレースになってしまいました。なんとか完走することこそできたものの、ドライバーたちには申し訳ないです。ただこの経験をしっかりスーパー耐久にも活かさなければいけませんし、速くなるための“ネタ”も仕入れることができたのはプラスな要素です。

星野 敏Satoshi Hoshino Team Principal & #77 Driver
今回はトラブルやミスもあったりして、完走することこそできましたが、あまりスッキリしない不満足なレースになってしまいましたね。これまで自分はデイトナやドバイでレースを戦いましたが、今回の鈴鹿10時間はそんな外国のような雰囲気があって、良かったですよね。3スティントは走りましたが、とてもいい経験を積むことができたと思っています。暑かったですが、自分がもっと練習を積んだり、体力をつけたり、作戦もこなせるようにならないと、もっと上にはいけないと痛感しました。

近藤 翼Tsubasa Kondo #77 Driver
まずは無事に完走できたので良かったとは思いますが、順位としては満足できるものではないので、その点では悔しさがあります。でも今回、7号車のバンバー選手やスヴェン選手と一緒に仕事をすることができ、オンオフの切り替えやレースへの取り組む姿勢、それに『鈴鹿でこんなラインがあるんだ』等々、本当に勉強になったと思います。良い機会をいただいてチームに感謝していますね。今回得たことがスーパー耐久の残りのシーズンにも役に立つと思いますし、ドライバーとしてもいい経験を積むことができました。

ジョノ・レスターJono Lester #77 Driver
決勝日はすごく長かったね(笑)! レースウイークの走り出しはフィーリングも良くなくて、僕たちはレースに向けて改良を続けてきた。レースでもクールスーツのトラブルがあったりして、ガレージに入ることがあったから、リザルトを残すことはできなかったけど、D’station Racingを応援してくれるファンもいたし、リスクをなるべく避けて走りきることに向けて努力した。レースの雰囲気は最高だったし、日本で戦うときはいつもこうして素晴らしい経験をできる。この週末、D’station Racingに加わることができたことを光栄に思うよ。

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