ルノー 新型メガーヌ ルノー・スポール試乗|FF最速の座は必ず”アイツ”から奪い返す!

ルノー 新型メガーヌ ルノー・スポール ボディカラー:オランジュトニック

ルノー・スポールのメインターゲットは日本だった!

ルノーは黎明期から技術を研鑚と成果を積み重ねるためにモータースポーツ活動に熱心で、レースやラリーで数々の栄冠を獲得してきた。現在、そんなルノーのモータースポーツ活動の重要な役割を果たしているのが、1976年に発足した「ルノー・スポール」である。

ルノー・スポールはモータースポーツ活動を行なう「ルノー・スポールレーシング」と市販スポーツモデルの開発を行なう「ルノー・スポール カーズ」の2部門が密に連携しながら活動を行なっている。モータースポーツのために開発された技術を市販モデルにフィードバックはもちろん、市販車開発で得た知見をモータースポーツにフィードバックするなど、技術の好循環が行なわれている。

ちなみにルノー・スポールは日本がメインマーケット。実はルノー・ジャポンの年間販売台数の約1/4はルノー・スポールモデルで、その台数は世界のマーケットの中でも3~5本の指に入る。2013年に欧州外では初となる日本での開発テストも行なわれて以来、開発陣も頻繁に日本を訪れて、ニューモデルへフィードバックを行なっている。

4代目メガーヌ ルノー・スポールは5ドア+2ペダルEDCで登場

ルノー 新型メガーヌ ルノー・スポール ボディカラー:オランジュトニック

そんなルノースポーツが開発した最新モデルが、4代目メガーヌをベースにした新型メガーヌR.S.(ルノー・スポール)である。

従来モデルはクルマ好きの中でもよりニッチなユーザーに向けた商品だったが、新型は「より多くの人にルノー・スポールの魅力を体感してほしい」と言う想いが随所に込められている。その一つが「5ドア」のボディの採用である。

ベースとなるメガーヌのラインアップに準じた形にはなるが、Cセグメントスポーツハッチ市場は91%が5ドア…と言う状況は、ハッチバックとしての使い勝手を考慮した結果でもある。

もう一つは「EDC(2ペダルMT)」の採用である。時代の流れもありCセグメントスポーツハッチ市場の82%が2ペダルモデルであることを考慮した設定だ。

エアロパーツ類はライバルに比べて控えめ

ルノー 新型メガーヌ ルノー・スポール ボディカラー:オランジュトニック

エクステリアはノーマルのメガーヌGTに対して、メガーヌ R.S.はワイドな開口部&レーシングカーの意匠を踏襲したF1タイプエアインテークブレードやチェッカーブラッグ型の補助ライト「R.S.ビジョン」を採用したフロントバンパー、ノーマル(メガーヌGT)よりもフロントが60mm、リアが45mm拡大された専用フェンダー(フロントはスリット付)、一体型デュフューザー&コーナーのバーチカルスリット&センターマフラーが特長のリアバンパー、小型化されたリアルーフスポイラー、19インチアルミホイールなどをプラス。

エアロパーツはライバルの“アイツ”より控えめだが、ルノー・スポールのフィリップ・メリメ氏は「床下のエアロダイナミクスが効果的なので、全く問題ないですね」と。

ブラック基調にレッドアクセントで落ち着いたインテリアデザイン

ルノー 新型メガーヌ ルノー・スポール

一方、インテリアはブラックを基調にレッドのワンポイントとカーボン調の素材の組み合わせというスポーツモデル定番のコーディネイトながら、子供っぽさがないのはさすがだ。ヘッドレスト一体型のスポーツシート(アルカンターラ)、フルグレインレザーステアリング、レザーシフトノブ、アルミペダル、パドルシフトが採用されている。メーターも専用で、デジタル部分は表示変更も可能だ。

アルピーヌ A110と同じ1.8リッターターボエンジンを専用チューニング

ルノー 新型メガーヌ ルノー・スポール 1.8リッター 直噴ターボエンジン

先代メガーヌ R.S.はある意味チューニングカー的な雰囲気が強かったが、新型は全体的にスタイリッシュになったのはもちろん、メガーヌシリーズのフラッグシップとしてのプレステージ性や質感もプラスされているように感じた。

パワートレインは先代の2リッターターボ(F4R)から1.8リッター直噴ターボ(M5P)に刷新。このエンジンはアライアンスパートナーである日産と共同開発したユニットで、アルピーヌ 新型A110にも搭載されるが、メガーヌR.S.はルノーF1チームと共同開発された専用ヘッドや吸排気系のチューニング、ツインスクロールターボの改良などにより、先代より排気量を200cc下げながらも、パフォーマンスは273ps/360Nmから279ps/390Nmにアップした。

トランスミッションはデュアルクラッチ式の6速EDCを搭載。弟分ともいえるノーマルのメガーヌGTは7速だが、メガーヌR.S.の6速EDCは高出力/高トルク対応ユニットで、ルノー・スポールとゲトラグで共同開発された物だ。

低速は逆位相、高速は同位相の4輪操舵「4コントロール」を採用

ルノー 新型メガーヌ ルノー・スポール

新型メガーヌ R.S.のプラットフォームはルノー・日産アライアンスで共同開発されたCMF(コモン・モジュール・ファミリー)のC/Dプラットフォームで、ホワイトボディ自体はノーマルと同じ(=つまり基本素性がいい)である。

サスペンションはフロントがストラットに専用のアクスルを追加したDASS(ダブル・アクシス・ストラット)、リアがトーションビームと形式は先代を踏襲するが、フロントはジオメトリーの変更、リアはメガーヌGTにも採用される「4コントロール」と呼ばれる4輪操舵を採用している。

ちなみに本国ではオールラウンダーな「シャシースポール」と、走りに特化した「シャシーカップ」と2種類のセットが用意されるが、日本向けはルノー開発陣が日本の路面でテスト走行を行なった結果、「ベストはシャシースポール」だそうだ。

このシステムは10年以上前に3代目ラグナGTで初採用されて以来、継続して開発を続けてきたシステムで、低速走行時は逆位相で俊敏性や小回り性能を高め、高速走行時は同位相で安定性を高めると言う二律双生を実現するルノー・スポールの解答である。

ルノー 新型メガーヌ ルノー・スポール

4コントロールによってロールスピードを上手に制御できるようになった結果、より柔らかいサスペンションを使えるようになったと言うが、それに加えてショックアブソーバーはKYB製のHCC(ハイドロリック・コンプレッション・コントロール)を4輪に採用(従来は前輪のみ)。HCCはラリーからフィードバックされた技術で、ダンパー・イン・ダンパーがバンプラバーと同じ機能を持つ。

バンプラバーのように反力や振動をホイールに伝えることなくリバウンドや振動を抑制。また、バンプラバーよりも細かい調整が可能なので、サスの動きをよりリニアにできる。

ブレーキはフロントにブレンボ製4ピストン・モノブロックキャリパーを採用し、先代比で15mm拡大した335mmのディスクを組み合わせた。リアはTWR製のモノピストンキャリパーを採用。タイヤは245/35R19サイズのブリヂストン ポテンザS001を履く。

ルノー 新型メガーヌ ルノー・スポール ボディカラー:オランジュトニック

「あれっ、これはノーマルのメガーヌGT?」と錯覚するような快適な乗り味

そんな新型メガーヌR.S.だが、試乗して最初にビックリしたのは快適性の高さだ。先代は「これ以上はヤバいでしょ」と言うギリギリの快適性を持たせていたもののかなりハードな乗り味だったが、新型は路面からのアタリが柔らかい上に、路面のギャップやうねりを超える際のストローク感などスポーツモデルとは思えないほどである。

ステアフィールもセンター付近は心地よいダルさと穏やかさがあるのでシビアな感じは皆無。大径タイヤを履くためステアリング切れ角はそれほど大きくないが、4コントロールにより最小回転半径はこのサイズのクルマとしては驚異的な5.2mを実現しており、取り回し性も非常にいいのだ。

エンジンも実用域のトルクフルな特性とEDCのマナーの良さと滑らかな制御も相まって、普通に乗っている限りはスポーツモデルであることを忘れてしまい、「あれっ、これはノーマルのメガーヌGT?」と錯覚してしまったほど。欲を言えば、ここまで快適性が高いとアダプティブクルーズコントロール(ACC)が欲しくなる。

ワインディングではキレッキレのコーナリング性能を発揮

ルノー 新型メガーヌ ルノー・スポール ボディカラー:オランジュトニック

タウンスピードではいい意味で“緩さ”を持つメガーヌR.S.だが、ワンディングで鞭を入れると歯車のギャップが限りなくゼロに近いようなキレッキレのステアリング回頭性の高さと、前輪/後輪に同時にグリップが発生していると思うくらいのダイレクトな応答性で旋回姿勢に入るのだ。

タイトコーナーでも操舵量が他のFFスポーツと比べても圧倒的に少なく、例えるならばゼロカウンターでコーナーを曲がるようなイメージ。最初はあまりに曲がりすぎるので違和感を持つ人もいるかもしれないが、機械的に曲げられているのではないので「違和感のない違和感」といった感じか!?

その一方、高速域ではダイレクトな応答性はそのままで、まるで四駆なのかと錯覚するくらいの絶大なスタビリティの高さと安定したハンドリング特性が実現されており、先代のように限界域で腕を選ぶような走りではない。これは4コントロールの効果はもちろん、様々なアイテムを活かす“基本素性”の高さも大きいと思っている。

ブレーキは絶対的な効きはもちろん、コントロール性とタッチが抜群にいいが、個人的には初期制動が強めに感じられた。

ちなみにリアタイヤは逆位相では最大2.7度、同位相は最大1度動くが、速度、操舵角、操舵スピードなどを含めた様々なセンサーによってアクティブに制御されており、その切り替えは自然なので全く解らない。

シャシー開発チーフエンジニアのフィリップ・メリメ氏にその印象を伝えると、「大事なのは制御任せではない…と言うことです。デジタルテクノロジーやシミュレーションも欠かせないですが、重要なのは“人”による最後のファインチューニングなのは、今も昔も変わりません」と語ってくれた。

MTのように“飛ばしシフト”が可能な「マルチダウンシフト」を採用

ルノー 新型メガーヌ ルノー・スポール ボディカラー:オランジュトニック

新型メガーヌ R.S.のエンジンは先代のような古典的なターボらしさは薄れたものの、絶対的な力強さはもちろん、高回転まで段付きのないフラットなトルクと吹け上がりの鋭さ、そして7000rpmまでキッチリ回る特性。まさしく新世代の高性能ターボと言ったキャラクターだ。

EDCのダイレクト感やシフトスピードは言うまでもなく、マニュアルモードでブレーキを踏みながら減速中にダウン側のパドルを引き続けると、車速に応じた最適なギアまで自動でシフトダウンし、MTのように“飛ばしシフト”が可能な「マルチダウンシフト」も採用した。これはスポーツドライビング時に非常にありがたいアイテムでもある。

ドライバーの好みや走行条件に合わせてアクセル操作に対するレスポンス、シフトプログラム、シフトスピード、ESC(横滑り防止装置)と4コントロールのレスポンス、パワーステアリングの制御が変更可能な「R.S.ドライブ」も用意。コンフォート/ノーマル/スポーツ/レースがセレクト可能だが、オールラウンダーな「ノーマル」に対して穏やかな特性の「コンフォート」、レスポンス重視の「スポーツ」と言った印象。また、自分好みに特性をセレクト可能な「パーソナル」も用意され、オレ様仕様にセットすることも可能だ。

6速MTやサーキットに特化した「トロフィ」追加で”アイツ”には負けない!

ルノー 新型メガーヌ ルノー・スポールと山本シンヤ氏
ルノー 新型メガーヌ ルノー・スポール 左:シャシー開発チーフエンジニア フィリップ・メリメ氏/右:テストドライバー ロラン・ウルゴン氏

実は試乗会の前に、テストドライバーのロラン・ウルゴン氏のドライブでクローズドコース(伊豆サイクルスポーツセンター)を同乗試乗した。一般道では体感できないハイスピードな走行(レースモード)を体感したのだが、ゴーカートのようなダイレクト感と驚異的なコーナリングスピード、そしてドライビングスタイルに合わせた自在性の高さにビックリ。「俊敏」と「安心感」が高いレベルで共存していることがよく解った。

新型は走りの性能を先代よりも引き上げながら多様性(=マルチパフォーマンス)が盛り込まれた一台だが、従来の硬派路線を知る人にとっては「ルノー・スポールも時代に流されてしまったか?」と感じるかもしれない。しかし、その心配はいらない。

従来からのファンにも対応した3ペダルの6速MTの追加設定や、より高出力でサーキットに特化した「トロフィ」の存在も公言している。更に現在“アイツ”に更新されているニュルブルクリンクFF最速の座を奪還する計画も動いているそうだ。

ロラン・ウルゴン氏にその質問をしてみたら、「記録は破るためにあるからね…」と。

[TEXT:山本シンヤ/PHOTO:茂呂幸正]

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