全体で一つのパブリッシャー 「メディア機能」すらもキュレーション

By 中瀨竜太郎

ノアドットの課題解決アプローチはまだ他に同じものがありませんが、「URLに経済インセンティブを埋め込む」こと自体は、特に新しいアイデアではありません。何が従来の手法と異なるのでしょうか。


 URLに経済インセンティブを与えるモデルとしては、「リンクのクリックでポイントが貯まる」というサービスが昔からあります。また、商品販売でのアフィリエイト・プログラムも同様です。

 ただ、ノアドットがURLに埋め込んだ経済インセンティブは、あるURLのコンテンツページが生んだ広告収益のうち、38.2%もの高い割合を、そのURLを流通させたキュレーターに与えるものです。「コンテンツページの持ち主が、収益最大化のために外部に渡すおこづかい」とは考えられないほど分配比率が高い。ここが、既存のアイデアと決定的に異なると考えています。

広告収益は、キュレーターが38.2%、コンテンツホルダーが61.8%の黄金比で分配されます。

 私たちは、コンテンツページの収益を増やすインセンティブを作っているというよりも、コンテンツページの生成量やコンテンツ生産量を抑制するインセンティブを作っているのです。
 みんなが収益の100%獲得を求めてコンテンツやそのページを作りすぎることで結果的に地獄化する世界ではなく、分け合うことで生産者にとってのメディア活動を持続可能にし、ユーザー体験も改善していこう。そういう「単にリンクを張るだけでお金がもらえるという快楽でありつつ、道理的に正しくもある」という点が、従来とは似て非なるアプローチであり、持続不可能な市場で重要なことと考えています。

 また、単にURLに経済性を持たせるだけでなく、そのURLをノアドットに参画するメディア同士で“共同運営”するかのような「シングル・ドメイン」のウェブサーバーに集約していることで、さまざまな弊害をいっぺんに解消することにつながっていきます。

 たとえば、ユーザー視点では、共通のドメインと共通のデザインテンプレートでコンテンツを閲覧できることで、インターフェースを学習するコストを下げられます。Wikipediaがその最たる例ですし、Yahoo!ニュースやSmartNewsなどが支持されているのも、ユーザーが「朝日新聞はここにあれがあって、読売新聞はこうで…」と頭を切り替えて供給者都合のページデザインを受け止める必要がないから、という点もあるはずです。この視点について、とある全国紙のマネジメントの方から、こんなことを言われたこともあります。

新聞は購読紙を変えたところで、急にまったく違う体験になることはない。題字くらいしか違わないかもしれない。ホームページの見栄えをそれぞれの新聞社が勝手に作っていくっていうのは、実は新聞的じゃないんだよな。

 広告主視点でも、あらゆる法人、個人メディアが参加するシングル・ドメインのウェブサイトがあり、そこに共通の広告枠のフォーマットがあって、大規模な閲覧がそこに集中していれば、各種の広告詐欺リスクを避け、より安全に広告運用ができるようになります。
 メディア自身にとっても、そのシングル・ドメインのウェブサイトにすべてのユーザー行動データや属性データを集め、そのすべてを無料で閲覧できます。収益性の低いウェブのなかで、外部事業者への外注コストや人件費の支出、会計上の減価償却などを伴わずに必要なデータがすべて揃う。IT事業者だけがコンテンツや広告枠をかき集めてやってきたことを、メディア自身がより低コストで実現できるのです。

「機能のキュレーション」でメディアを設計

 通信社や新聞社に政治部、社会部、運動部などがあるように、私たちはノアドットという基盤のうえで、あるメディアが政治部を、あるメディアが社会部を、あるメディアはサッカー部を、あるメディアはドラマ部を受け持ち、それぞれがノアドットというニュースルームに出稿された記事から自メディアのユーザーに必要な文脈でコンテンツを選び、届けていく世界を想像しています。

 このことは、中長期的には、現実離れした机上の空論とは言いきれなくなっていくと思います。以下は、ある県紙の経営企画の方の発言です。

○×(ある地域スポーツチーム)のファンで、うちの運動部の記者より詳しくて面白い記事を書いているブロガーがいる。ああいう人にノアドットに記事を入れてもらって、そこにうちのトップページのスポーツコーナーからリンクを張って読者に届けてあげたほうが、価値があると思う。

職業記者ではない市井の人たちのコンテンツの中にも優れたものがウェブにはゴロゴロと転がっていて、新聞社の人がそれを必要だと発言する程度には変化は起こり始めています。

 メディアにとって重要なのは、コンテンツを読者、視聴者に届け続けることですが、その届けるコンテンツがすべて自分たちで作ったものである必要はなく、低収益なウェブに適応するためには他者のコンテンツをどう活用するかが重要になっていきます。制作機能と流通機能のキュレーションです。

 これまでは、メディアをやるときにはまず「コンテンツを作る」ところから入っていくのが常道でした。
 しかし、Googleやヤフーなどの大手ディストリビューターが支配する世界でそれをやると、彼らのアルゴリズムや編成方針に最適化して「コンテンツページからのPV稼ぎ」にだけ向かうことにつながり、平準化を避けられません。

プラットフォームは、パブリッシャーのコモディティ化を進めた。パブリッシャーがプラットフォームのアルゴリズムから高く評価されることを望んで、同じタイプのコンテンツばかり作ってきたからだ。他社も制作しているコンテンツを制作するのはすぐにやめて、コンテンツ制作のアプローチを見直さなければならない。ほかの誰も制作していないコンテンツを作るべき。ハードルは高いが、うまくやれば、重要な構成要素が備わり、ターゲットにしているオーディエンスにとって必読のコンテンツになれる。

 これからは、

  • まず、自メディアのコンセプトやユーザーの文脈にマッチする他者のコンテンツを使い、ボリュームを確保する。
  • そのうえで、そのなかには見つからないオリジナルコンテンツを作る。

というメディア設計が求められていくはずです。

 ノアドットが流通や収益化にかかるインフラコストを水平統合し、コンテンツホルダーがキュレーターのために制作コストを負い、キュレーターがコンテンツホルダーのために流通コストを負う ── 私たちは、このようにメディア同士が協力し合うことでコンテンツとチャネルの遊休資産を活用しあうことを「メディアのシェアリング・エコノミー」と呼んでおり、これがメディアがIT事業者に対し主導権を持って新しいゲームを作る機会だと信じています。

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