宿題の代行

 大学で教えている精神科医の香山リカさんが、あぜんとした出来事を著書に書いている。ある学生が提出した卒論は明らかにインターネット上の論文のコピーだった。問い詰めると、学生は怒って反論しだした▲だって自分の考えと同じなんですよ-。どこがいけない、と言いたげだが、よろしいはずがない。早い話、盗用なのだから▲では、人が書いた作文を買って、提出する場合はどうだろう。盗用とは言い難いが、買って手に入れたから「自分のもの」といえるかどうか▲自分がまるで関わっていない作文を「自分のもの」と呼ぶのはどうも苦しい。なのにネット上にはこれまで、読書感想文や自由研究といった、子どもの夏休みなどの宿題を代行する出品が並んできた。どうぞ自分のものに、と▲フリーマーケットなどのサイトを運営する主要3社は先ごろ、そうした出品を禁止することで文部科学省と合意した。買い求める側にすれば、子どもは塾通いで忙しい、といった言い分もあると察するが、かといって代行がまかり通るものではなかろう▲ずっと昔、夏休みの終わりに宿題に追われ、焦った覚えがある。白状すれば親を頼ったこともある。そんな身で言うのも何だけど、宿題とはきっと、自分でやった分だけ身に付いて、「自分のもの」になるのだろう。(徹)

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