【やまゆり園事件】私は頑張れる ダウン症の娘、詩に託し

 相模原市緑区の県立障害者施設「津久井やまゆり園」で入所者ら45人が殺傷された事件の記事(7月25日付)に、2枚のファクスが届いた。「障害があっても一生懸命生きている姿を知ってほしい」。ダウン症の娘が自作した詩とともに、事件への切実な思いを打ち明けてくれた家族を訪ねた。

 〈障害を持っていても、口で伝えることが苦手でも、素晴らしい心や思いを持っている。みな一生懸命生きているのです。植松さんにも分かってもらいたい〉

 ファクスを寄せたのは、茅ケ崎市の主婦中野美穂子さん(67)。「意思疎通が取れない人間は安楽死させるべきだ」という重度障害者への差別的な発言を繰り返す被告に思いを届けたいと、次女暢子さん(38)がつづった詩「心の一つ星へ」を添えた。

  【暢子さん自作の詩「心の一つ星へ」】

   みんなの心の中に、一つ星があるよ

   私も心の中に、一つ星があるよ

   不安でも、一つ星がささえてくれるよ

   一つ星に、勇気をくれるよ

   私は頑張れるよ

   みんなも頑張れるよ

 8月下旬の昼下がり。自宅を訪ねると、玄関先で出迎えてくれた中野さんの背中越しに暢子さんが顔を見せた。丸いメガネからのぞかせる人懐っこい笑顔が印象的だった。

 「心の~」は、数ある作品の中でも中野さんにとって特にお気に入りだ。一つ一つ丁寧に書かれた大きく、丸っこい文字。紡ぎ出された前向きな言葉に励まされ、生きる力がじわりと湧いてくる。「誰にでもいいところがあるんだよ」-。そんな優しいメッセージが込められていると受け止める。

 発音が曖昧で思いを伝えるのが苦手な分、小さいころから絵や文字を書くのが好きだった。暢子さんが詩や絵画などの創作活動を本格的に始めたのは、特別支援学校の高等部を卒業した18歳ごろ。市内の美術館で個展を開いたり、企業の月刊誌の表紙を飾ったりするまでに上達した。

 出産直後、自分も悩みながら子育てをしていた。障害のある子どもを育てられるのか、将来を考えると不安がよぎった。よく泣いた。誰かに背中を押してもらいたい気持ちで、同じダウン症の子どもを持つ親を訪ねたこともあった。

 そして、今。障害を持って生まれた子どもの親が悩みや経験を語り合う場で必ず伝えていることがある。「そのうち、自慢の子になりますよ。私のように」

 創作活動を始めて20年。暢子さんが手掛けた作品は700点を超える。「言葉でうまく表現できなくても、心の中に優しい気持ちやあふれる思いを持っている。この子がそう教えてくれた」。だからこそ、被告に間違った考えに気付いてほしいと強く願う。

 話題が事件に及んだ時だった。それまで笑顔だった暢子さんが鼻先を赤く染めて泣いていた。被告をどう思うか。そう尋ねると、暢子さんは「さみしい」と短く答え、小さな声でつぶやいた。「お母さん、生きるって楽しいね」

自作の詩「心の一つ星へ」を詠んだ中野暢子さん(右)と母の美穂子さん=茅ケ崎市

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