【パ・リーグお仕事名鑑】野球への未練をビジネスで“払拭” PLMを支える元大手ゲーム会社営業マン

パシフィックリーグマーケティング株式会社でセールス&マーケティング部門のチーフディレクターを務めている園部健二さん【写真:(C)PLM】

PLMでセールス&マーケティングのチーフディレクターを務める園部健二さん

 グラウンドの上で輝く選手やチームを支えているのはどんな人たちなのか。本連載「パーソル パ・リーグTVお仕事名鑑」でパ・リーグに関わる仕事をしている人、そしてその仕事の魅力を紹介していく。

 パ・リーグ6球団の共同出資により、2007年に設立されたパシフィックリーグマーケティング株式会社(PLM)。グラウンドではライバルとなるパ・リーグ6球団がビジネス面でパートナーシップを組み、「パーソル パ・リーグTV」や「パ・リーグ.com」などのデジタルサービスを提供するほか、6球団共同のイベントやスポンサーセールスなども行っているが、それを遂行するのがPLMの役割だ。

 同社でセールス&マーケティング部門のチーフディレクターを務めている園部健二さん。現在はPLMの重要な戦力として活躍しているが、実は昨年の夏まで大手ゲーム会社「セガゲームス」でアジア各国を飛び回る営業マンだった。前職では若くして課長に就任し、順風満帆なキャリアを送っていたが、あるきっかけで人生を見直すことになったという。

「中学卒業までは野球三昧の日々だったのですが、厳しい練習と丸刈り頭が嫌で、強豪校として知られる高校からのお誘いを断ってしまいました。お世話になっていた監督の面子を潰し、気まずいやめ方をしてしまったんです。でも、かつての仲間たちの高校最後の試合を見に行った時、やっぱり野球っていいなと感じて、草野球チームを作って社会人になってからも続けました。自由にやる野球はすごく楽しくて、もし高校に入ってからも続けていたらどうなっていただろうと、後悔で心がモヤモヤすることもありました。そんな時、たまたま読んでいたネットのニュースで『野球で、人を救おう。』というキャッチコピーが目に留まったんです」

 それは、プロ野球選手や球団のチャリティー活動をサポートするNPO法人「ベースボール・レジェンド・ファウンデーション(BLF)」のスローガンだった。すぐに連絡を取り、このNPOが支援している西武主催の「ライオンズカップ車椅子ソフトボール大会」のボランティアに参加。以前とは違った形で、野球と接点を持つことになった。

「当時セガでは、台湾や韓国、中国、香港、その他東南アジア各国に自社のゲームをローカライズしてセールスする新規事業を任されていました。一般的には知名度もある会社で、給与水準も悪くなく、アジアのゲーム市場も伸びていた。だから、転職など考えたことがありませんでした。でも、BLFとの出会いをきっかけに、何か野球やスポーツに恩返しできる方法はないだろうかと、自分なりにリサーチを始めたんです」

 自分が積み上げてきたのは、ビジネスパーソンとしてのキャリア。それを活かして野球界に還元できないかとスポーツビジネス業界について調べたところ、PLMの求人にたどり着いた。チャレンジするまでに迷いはなかったが、いざ内定が出ると心底悩んだという。

「スポーツ業界の空気感はどうなのか、自分に合うのか、はたして続けられるのか。セガでお世話になった方々や課長就任を後押ししてくれた上司の期待を裏切ってしまうことにもなる。まだ子供も小さいし……と、いろんなことを考えてしまって、ものすごく迷いました。でも、野球をやめてしまった後悔の念を払拭するためにも、思い切ってチャレンジすることにしたんです」

「0から1を生み出す」ワクワク感

 一大決心の末就職したPLMで、セガ時代とその前職の音楽出版社時代の営業スキルを活かし、現在セールス&マーケティングのチーフを務めている。ちょうど転職して1年が経ち、「毎日が楽しいの一言」と充実した様子が伺える。

「PLMは選手も球場も抱えていないので、売るコンテンツを自分たちで創造します。まず、そのアイデアを見つけて企画することがすごく面白いですし、それを企業のニーズに当てはめて球界が潤うように働きかけるプロセスもとても楽しい。セガの頃は開発者が作ったゲームを売るのが仕事だったので、僕自身が0から1を生むことはなかったのですが、今はその部分も含まれるので、それも新鮮です」

 これまで経験のなかった「0から1を生み出す」という作業を行うにあたっては、「好き」であることの重要性を改めて感じるという。

「実は僕、子供の頃からゲーム機を持ったことがほとんどなかったんです。セガにいた頃、自社製品への愛着はもちろん持っていましたけど、もともとゲームが大好きというわけではなかったので、今思えば自分の仕事においてアイデアを提案することにも限界があったかもしれません。でも、大好きな野球に関係することだと、休みの日まで自ら進んでいろいろ考えてしまうんですよ。好きだからこそいいアイデアが湧いてくるということは、やはりありますよね。もはや仕事という感覚はないです」

野球への未練をビジネスで払拭

 PLMは、今年7月に人材紹介サービス「PLMキャリア」を開始した。同サービスでは、野球に限らずスポーツ業界で働きたい人材と、人材を求めているスポーツ団体や関連企業とのマッチングを行う。これは、もともと存在した企画を、園部さんが入社後に具現化したものだ。

「労働局に有料職業紹介の許可を取得しに行くところから始めて、責任者講習も受けました。ローンチをお知らせする『パ・リーグ キャリアフォーラム suppurted by DODA』の開催や専用サイトの立ち上げを経て、ようやく7月に本格的にサービスがスタートしました」

 オープンして間もないが、まさにスポーツビジネスの中核とも言えるPLMが人材紹介を行うことには、すでに大きなメリットを感じているという。

「PLMはJリーグさんやBリーグさんなど、いろんなスポーツ団体、企業とお付き合いがあります。人事部だけでなく、日頃からビジネスサイドの様々な部署と接点があり、普段の仕事を通してどんな方がそこで働いているかが見えるので、職場環境や適性などを踏まえたご紹介ができるという強みがあります」

 サービス開始直後からエントリーが殺到し、最近では業務の傍ら1日に3~4人と面談をしているそうだ。自らも他業種からの転職組である園部さんは、スポーツ業界で求められる人材像についてどう考えているのか。

「企業によってまったくニーズが違うので、一概にこうであるとは言い切れません。スポーツ業界経験者でないほうがいいという団体もあれば、『◯◯業界の経歴を優遇したい』と具体的に提示するところもある。もちろん同じ会社でも、急いで採用したい時もあれば、じっくりと採用に時間をかける時もある。全ては運と縁とタイミングですね。ですから、チャレンジしてみないとわからない。みなさんにチャンスがあると言っていいと思います」

 ただ、チャンスはあったとしても、スポーツ業界に入って活躍できるかどうかはまた別の問題。園部さんのように組織を引っ張るリーダーとなり、毎日が楽しいと感じられるようになるためには、どんな資質が必要なのだろうか。

「スポーツが好きという気持ちはもちろん大事ですが、それだけでは足りないと思います。その『好き』をどうビジネスに変換できるか。そして、今の自分にはこれができて、数年後はこれをやりたいというビジョン、つまりCanとWillがしっかりあって、それに基づいて積極的に動ける人。それは、どの企業のどの職種でも共通して求められる資質だと感じます」

 園部さんのように、昔スポーツをやっていて、「やっぱりスポーツ界で活躍したい」「スポーツ界に恩返しがしたい」という人も多い。ただし、その熱い思いをビジネスに変換できる視点が、現実的には不可欠のようだ。

「5年後、10年後にはPLMからスポーツ界に羽ばたいていった人材がたくさんいると考えると、連携もしやすくなりますよね。それは中長期的にはネットワークづくり、つまりスポーツ界を一つにすることにもつながると思います」

 この夏はメジャーリーグやプロバスケットボールNBAなどの視察のために渡米し、アメリカのスポーツマーケットの大きさを目の当たりにしたという園部さん。多民族国家の共通言語としてスポーツが存在し、全米の広告宣伝費の約7割がスポーツに使われている現地の状況に、改めて夢が湧いてくる。

「日本のスポーツマーケットをもっと大きくしたいです。日本のプロスポーツリーグの多くは公益財団法人で、株式会社はPLMくらいではないでしょうか。日本ではまだスポーツでお金を稼ぐことへの認知が低いと思います。お金を稼ぐことでそれをファンへ還元し、より成長拡大に繋げることができる。そのためにも日本のスポーツの価値をもっと高めていきたいですし、自分もそれに貢献できる人材でありたいと思います」(「パ・リーグ インサイト」岡田真理)

(記事提供:パ・リーグ インサイト)

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