学生生活「就活中心にならないか」 指針廃止発言の波紋 

 就活ルールを廃止すべきだ-。会社説明会の時期など大手企業の採用活動を定めた経団連の指針を巡る中西宏明会長の発言が波紋を広げている。神奈川県の企業の間では不安、懸念と理解、賛意が交錯。学生を送り出す側の大学は「就活が長期化するのでは」と、発言の行方を注視している。

 ■主戦場移る? 

 「『何でもあり』に歯止めがなくなるのは困る」と指摘するのは、金融機関の担当者。金融業界は基本的に経団連の指針を守っているが、外資系などは異なる。

 「指針が廃止されれば就活は前倒しになり、本来は採用活動とは関係のないインターンシップ(就業体験)が主戦場になるだろう」。早くから就職を意識する学生と、そうでない例の差が広がるとも見通し、「学生はいつ勉強するのだろう」と当惑顔だ。

 採用活動の進め方への不安も広がる。運輸会社の担当者は「通年採用になると、採用スケジュールなどを大幅に見直す必要が出てくる」と困惑気味。「インターンシップや採用広報など学生と接触する時期についても見直しが必要だ。動向を注視したい」と話した。

 人材不足も背景に、物流大手の懸念はあらわだ。「昨今は売り手市場で、採用活動は楽ではない。採用段階で、さらに業界トップクラスに学生は流れてしまう。インターンシップを実質的な採用の場としている企業もあると聞くが、(廃止なら)そうした例が増えるだろう」

 ■実態は形骸化 

 一方、指針の形骸化を指摘する県内企業も少なくない。大手メーカーは、5月1日時点で4割超の学生が内定を得ているとのデータに触れ、「実態に照らせば、(廃止は)至極当然」と受け止める。「指針がなくなっても影響はない」(IT企業)との声も。

 物流大手はルールの変化が相次いだ経緯を振り返り、「ルールが変わる度に混乱する。年月の経過と共に、各企業の実力に見合った採用活動やスケジュールが定着するのでは」と廃止に理解を示す

 専門性の高い業種で研究者を多く抱えるメーカーは他社の動向にあまり左右されないが、大学の研究室を支援して学生を囲い込む「超青田買い」はあるという。担当者は「優秀な学生を確保する競争は一層激しくなるのでは」と見越した。

 ■長期化を心配 

 一方で、大手メーカーは「学業への影響を考慮し、インターンシップのあり方や採用活動に一定のルールは必要」と、“完全自由化”には反対する。

 別の大手メーカーも「採用活動の選択肢が広がるのは歓迎だが、各社が自由に採用を行うようになると、学生が混乱する。ルールを緩和しながら段階的に撤廃に向けて進めるべきでは」と、急激な変化をけん制する。

 大学側は就活の長期化、学業への影響を心配する。フェリス女学院大学(横浜市泉区)就職課は「今までの就活の流れがなくなり、長期化する懸念がある」と吐露。指針と実態の乖離(かいり)に触れ、「現状は透明性がないが、そういうことがないようにしてほしい。また、学業を優先できるよう企業側が配慮してくれる就活が望ましい」とした。

 神奈川大学(同市神奈川区)の就職課も「学生生活が就職活動中心のような状態にならないだろうか。今回の方針転換は、新卒一括採用の廃止も視野に入れてのことだと思うが、一括採用は、若年者の失業率を低く抑える効果があった。どうなっていくのか」と嘆く。

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