事業を引き継ぐ

 江戸時代、親の職業を子が継ぐのは当たり前のことだった。商家の長男に生まれれば商家を継ぎ、職人の子は職人だった。跡継ぎがいなければ養子を迎えた▲このため家単位で営まれている事業は、商家であれ職人工房であれ、代々継承されて地域の暮らしを支えてきた。だが、現代社会においては、親が営んでいる事業を子が継がないケースは珍しくない▲高齢になった経営者の周辺に適当な後継者がいなければ、企業は廃業の道を選択するしかない。そうなれば地域社会は、取引先や雇用の場を失うなどして、少なからぬ影響を受ける▲先日の紙面に、雲仙市の老舗温泉宿、雲仙湯元ホテルが冠婚葬祭大手のメモリードに事業を譲渡するという記事が出ていた。後継者不在に直面していた13代目当主が存続のために決断したという▲本県では今後の人口減少に伴い、企業数も減少していくことが予想される。そうなれば地域の経済活動が維持できなくなってしまうかもしれない。最近、後継者がいなくても事業を継続する手段が注目されているのは、そのためだろう▲地域に長年なじんだのれんは、地域が育んできた財産の一つでもある。江戸時代から続く伝統の宿は、経営者が代わっても雲仙温泉街に存在し続ける。そのことにほっとする人も多いだろう。(泉)

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