銅版画でコラージュ漂う異界の存在  横浜高島屋ギャラリー入江明日香展

 色彩豊かな作品で人気を集めている銅版画家の入江明日香(38)。初期から最新作まで約80点の作品が並ぶ初めての大規模個展が、19日から横浜駅西口の横浜高島屋ギャラリーで始まる。入江は「こんな創作活動をしている作家もいるんだなと知ってほしい」と来場を呼び掛けている。

 水彩や墨などで手描きしたペイントに、銅版で刷ったさまざまな色や模様の和紙を貼ってコラージュするという、手のかかる手法で制作している。自らが表現したいものに、より近づけることができるという。

 「訓練すれば版だけでも完璧な世界を作れるようになるかもしれないが、自分の描きたい世界にはならない。ペインティングだけだと味わいがない。紙に刷ったものとペインティングを組み合わせることで、やっと自分がやりたかったものになった」と入江。

 流れるような曲線に鮮やかな色彩。美しい瞳の人物がたたずむ画面には、異界の存在の気配が漂う。

 2011年に文化庁の支援による海外研修制度で渡仏。パリの伝統ある銅版画専門の工房で1年間、みっちり学んだ。パリでの生活を経て、作品の色使いが豊かになったという。色数が増えて、色彩が明るく華やかになった。

 「欧州の街並みに慣れてくると、その色彩の美しさに気付かされた。人々が着ている服、景色、看板もうるさくない。何より空の色が印象的だった」

 滞在中は、日本の国や文化について尋ねられる場が多く、最初はうまく説明できなかったという。

 「通勤ラッシュが大変だとか、ネガティブな話がまず出てしまう。でも、他の国の人たちが、自国のいいところを説明しているのを見て、自然の美しさといった日本の文化の良さを見つめ直し、大切にする気持ちになった」

 帰国後、神社仏閣といった日本的なものに囲まれた暮らしを意識。奈良・東大寺の四天王像を見て、その迫力に圧倒され、それぞれをイメージした作品を制作した。

 ユニークなのは、四天王の足元や肩先に、動物や小さな神様がいるところ。こうした組み合わせは他の作品でもよく見られる。

 「強い者と弱い者といった、何かと何かが一緒にいて共存する姿を描きたい」

 さらに、華やかな衣装の先が燃えていたり、脚の一部が白骨化していたり、と謎めいた表現も見られる。「朽ちてなくなるもの、風化するものの中から再生していくものがある。全てつながっていると考えるのが好きなんです」

 「横浜海航図」は横浜展のために描いた新作。「横浜というとブルーのイメージで、やはり海と船」と、中性的な顔立ちの人物がまとっている着物の裾には横浜から出港する和船が描かれている。

 「平面絵画の中では、版画は価値が低くみなされていると思う。多くの方に、版画にもっと興味を持ってもらいたい」と訴えた。

 「入江明日香展」は10月1日まで。一般800円、高校・大学生600円。9月19、22、25日の午前11時と午後2時、ギャラリートークとサイン会を行う。19~25日は、横浜高島屋画廊でも展示あり。問い合わせは横浜高島屋電話045(311)5111。

会場で販売されるTシャツを持つ入江明日香=東京都内

© 株式会社神奈川新聞社