第29回:ポテンシャル採用は時代錯誤 真のダイバーシティを考える

言わずと知れたように新卒一括採用は日本独特の文化で、いわばポテンシャル採用ですが、いまさらながら先日、経団連の中西会長が新卒一括採用の廃止に言及していました。https://www.nikkei.com/article/DGXMZO34913280T00C18A9EA1000/ 

日本では新卒で採用されないと、まるで社会からドロップアウトされたように見られる風潮があります。また、採用後に育成スキームや経験とともにポテンシャルが引き出され、次第に人財として戦力になっていくという日本特有の過程があります。

単純に、採用をアメリカと比較をしてみれば、まず、アメリカには終身雇用というものはなく、実力主義の通年採用です。実力が伴わなければ、即リストラが常ですから、ほとんどの学生は、長期インターンシップに参加しています。

それも、日本の大学のような手厚い進路指導はありませんので、学生たちは当たり前に学業で優れた成績やスキルを得ることは自己責任で行い、休暇中にインターンシップに参加するのです。

したがって、学生時代に悠長に遊んでいる暇はないようです。学生たちは、インターンシップを通して、即戦力となるべく必要とされるものを身に付けるのはもちろん、その評価次第では、インターンシップ先の企業にハンティングされるケースもよく見受けられます。合わせて、優秀な学生は、その経験を通して得たスキルや思考で、自ら起業するケースもよくあります。

またドイツでは、日本でいう小学校4年生の終了の時点で、「実技」「職人」「進学」と、進路を選択しなくてはなりません。したがって、成長著しい早い段階で、自らの将来に特化したスキル習得を経た、社会に出ているのです。

アジア諸国の中で、香港では、スキルはもちろん、社会経験が重要視されます。そのために、知人の紹介でもコネでも、とにかく経験を重ねることが当たり前です。それも、できるだけ多くの経験を持っていることが重要視され、1つの業界や1つの職種だけでは半人前に見られます。サイドビジネスやパラレルワークも当たり前という文化があります。

このように、海外や広義に目を向けると、日本の新卒一括採用、つまりポテンシャル採用は、余力がある社会で成立することが考察されます。人・時間・生産性・GNPなど、余力があってこそ、ポテンシャルを引き出し、育み、寄り添い、おいては終身雇用という形式が成り立つのです。

人口動態、経済状況、環境変容など、グローバルな観点はもちろんのこと、日本社会は明らかに変化しています。それは、残念ながら、余力が高まっているという変化ではありません。むしろ、切迫している状況です。つまり、採用の大きな改革は喫緊の課題でもあるのです。

そして、合わせて、その裏側の貧困問題、教育格差、ジェンダー、働きがい、産業・技術革新の基盤、といったSDGsの目標を丁寧に解決していくことが欠かせません。

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