アドフラウドの表と裏 〜諸悪の根源はどこに?

By 中瀨竜太郎

 先日、「NHKニュース」の以下の記事が話題になっていました。

 ヤフー株式会社常務の宮澤弦さんが、ヤフーの外部にあるドメインへの広告配信によって起こった詐欺について語っているので、これはいわゆる「YDN」と呼ばれているヤフーの広告商品についての話だと思われます。

 YDNは上記ページで

YDNは、広告がクリックされた場合にのみ、費用(クリック料金)が発生する「クリック課金型」の広告です。予算は自由に設定が可能で、設定した予算以上の金額は発生しません。

と説明されています。いわゆる「CPC(Cost Per Click)広告」と言われているもので、今回の広告詐欺も、何らかクリックが生じたことではじめて広告主への課金も発生し、それが詐欺を働いたメディア側に支払われた、と考えるのが妥当だと思われます。しかし、NHKニュースの記事には

まとめサイトには、複数の広告が配信されていて、たとえ見られていなくても「見た」とカウントされ、まとめサイトの運営者側に、広告料が入る仕組みになっていました。

とあり、「見た」だけで広告主に対する課金が発生したかのように記載されており、それについてヤフーが謝罪しているのを見ると、どうも「CPM(Cost Per Mille)広告」で起こった広告詐欺に見えます。クリックではなくビューをベースにした課金モデルでの詐欺です。

 ただ、ヤフーのCPM広告商品としては「Yahoo!プレミアム広告」があるものの、2018年3月時点の広告商品一覧PDFを見る限り、これはヤフー外部ドメインの在庫をネットワーク化する商品ではないようです。
 もし仮に3月以降にヤフー外部ドメインの在庫をネットワーク化したCPM広告商品が販売されていたとしても、そのプレミアムなネットワークに怪しいまとめサイトの広告在庫が選ばれたとは考えづらいところです。

 となると、NHKニュース記事の「見た」ことで発生した詐欺という記述との整合性はいったん脇において、「YDNで詐欺が発生したから、ヤフーが謝罪した」ことだけを軸に考えると、単に「裏でまとめサイトを開いて不正に広告のビューを発生させられていた」だけではなく、「開いたあとにbotによるクリックも発生させられていた」という可能性が考えられます。

 これは技術的には可能であるようですが、煩雑すぎて考えづらいという意見も社内外で聞きました。実際、今回NHKニュースが報じた事象との直接的な関係は不透明ですが、以下のような分析記事も話題になっていました。

確かにこちらを見ても、クリックまで発生させるスクリプトが動いている、という記述は見当たりません。

重要なのは「裏で開かれたことの捕捉」なのか?

 少し方向性を変えて、YDNで発生した広告詐欺という話を今度は脇におき、「見た」ことで発生してしまう広告詐欺への対策は可能なのか? という話もしてみます。(ここでは対策が既に行われている「ドメインスプーフィング」の話はしません)

 ユーザー自身が見ているウィンドウではなく、その

裏で新しいタブが開き、ネットの話題やニュースなどをまとめた、「まとめサイト」が自動的に読み込まれ

たうえで、そのまとめサイトに広告が配信され、それをユーザーが「見た」ことにされて、お金が動いてしまったことへの対策ですね。

 これは「ちゃんと表のウィンドウの表のタブに出て、ユーザーが本当に見たときにだけ課金を発生させればいいんじゃない?」と考えるのが普通で、実際に米国を中心に昨今「ビューアブル・インプレッション」という考え方が広告主、広告配信事業者、メディアに浸透し、重視されているようです。
 たとえば、当社のニューヨーク勤務メンバーが2018年初頭に参加した「Programmatic World Forum」での、ワシントン・ポストのプログラマティック担当VP(Vice President)ジェイソン・トレストラップさんの発言に、こんなものがありました。

月1回の定例で、ビューアビリティの評価を行っており、1%でも下がったら徹底的に原因を突き止めて改善をする体制としている。

ビューアビリティというのは「ビューアブル・インプレッション÷広告配信インプレッション」で求められるもので、広告配信インプレッションはそれこそ「ユーザーが見ているウィンドウの裏のウィンドウやタブで開かれたまとめサイトへの広告配信」もカウントされますが、一方でビューアブル・インプレッションというのは「ユーザーが見ているウィンドウで広告クリエイティブの50%が1秒以上(動画の場合は2秒以上)表示された場合(※)」だけがカウントされます。

※オンライン広告における技術的標準規格の策定などを行う「IAB(Interactive Advertising Bureau)によるガイドライン

このガイドライン基準を満たした配信ではじめて料金が請求されることは広告主にとって極めてフェアであると感じられますし、このような条件を満たさなければ課金が発生しないのであれば、ワシントン・ポストのように米国メディアが「ビューアビリティ」の1%の下落にも躍起になっているのは合点がいきます。

 私たちも昨年来、取引の有無を問わず何社かの広告配信事業者に「ビューアブル・インプレッション」を重視した透明なウェブ広告取引に一緒に向かっていけないか、と打診してもきましたが、いずれも色よい反応は得られませんでした。理由として、「これをやることによる収益拡大が見込めない」「ビューアブル・インプレッションを気にしている広告主はほとんどいない」といったものがあげられました。
 確かに、日本のウェブ広告はダイレクトレスポンス系に偏ってきたと言われており(参考「2017 ブランディング目的の デジタル広告の利用状況&意識(ニールセン デジタル株式会社)」などに詳細)、それはつまるところCPC広告が中心ということになりますから、「インプレッション自体は別にどうでもいい」という広告主が多いというのは嘘ではないかもしれません。
 ただ、今後ウェブ広告でもブランディングを目的とした出稿に力を入れていきたいと考えている広告主が多いことは上記のニールセンの資料からもわかることであり、今のうちから業界全体で透明性を上げていくことは不可欠に思えるのですが、どうにも腰が重いようです。実際、一般社団法人日本インタラクティブ広告協会(JIAA)の指針では「裏で配信されている広告はビューアブルではない」とされていることについても、

技術的に捕捉し得ないもの(ビューアブル・インプレッション)が定義されても…

といった“ぼやき”を以前に耳にしたこともあります。
 確かに、「裏で開かれた」こと、そこに広告配信されたことを捕捉することには技術的なハードルがあるかもしれません。しかし、重要なのは「裏で何かが開かれたことを捕捉すること」ではなく、表のウィンドウできちんとビューアブル・インプレッションの指針に従って計測を行い、広告主へのレポーティングと請求を行うことであり、これが既に現実にできていることはワシントン・ポストのオペレーションを見ても明らかです。

 私たちには「業界全体として、この問題に真摯に取り組んでいない」と感じられることがしばしばあります。

 NHKニュースの記事中では「いたちごっこ」の表現で、詐欺集団への対策が簡単ではないことがヤフーの宮澤さんによって明かされています。でも、本当に悪いのは果たして、そういう抜け穴を狙って詐欺を働く集団なのでしょうか。
 私たちから見ると、この複雑なウェブ広告システムの構築、維持、拡大に肯定的に介在してきた人たちにも大きな責任があるように思えます。

 皆さんはどう感じていますか?

私たちも、日々変わっていく複雑なウェブ広告の全貌をいまだつかみきれずにいる一人です。誤りがあればジャンジャン直しますので、ご教示ください。

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