趣味は?【50代から始めた鉄道趣味】

【50代から始めた鉄道趣味】その20 脱線5 趣味?

小学校や中学校でクラス替えがあった時や転校した時に、自己紹介をすることがあったと思います。その時に必ず「え〜っと、趣味は・・・」という風に「趣味」について話しませんでしたか?

当時から「趣味って何だろう?」と不思議に思っていました。

だって、「趣味」は「余暇の過ごし方」、平たく言えば「ヒマのつぶし方」なんです。学生の頃は「勉強」が、大人になれば「仕事」がメインの用事ですから、それ以外の自由時間をどの様に過ごすか、習慣的に行うヒマつぶしのやり方が「趣味」というワケです。

ところが、今までの人生で暇つぶしってしたコトがないんです。子供の頃から活字中毒で、読みたい本が常に身辺に積んであります。出かける時は、読みかけの本と予備の文庫本を持って歩いています。つまり時間があったら本を読んでいれば幸福なんです。待ち合わせで待たされるのなんて全く気にしませんでした。

むしろ、本を読む時間をどうやってひねり出すか、が人生のテーマ。

でも、これって「趣味」なんでしょうか?

筆者と同世代の文芸評論家に斎藤美奈子さんという方がいます。彼女の著作に『趣味は読書』(ちくま文庫)というのがあって、実際の中身は「読書のプロが読むベストセラー」というものでした。20年くらい前にこの本を読んだ時「読書癖はマイノリティーである」というコトに直面しました。確かに日本人の0.1%、1000人に1人が買えば10万部のベストセラーになるのです。ご多分にもれず、筆者もベストセラーを読んだ経験がほとんどありません。内田百鬼園先生風に言えば「皆が読む本を読んでどうする?」って按配。

村上春樹さんの『ノルウェイの森』は上下巻、単行本・文庫本を合わせれば1000万部を越えるベストセラーですが、まぁ上巻だけ読んだにしても、20人に1人、40人のクラスで2人しか読んでいないワケです。村上春樹さんはデビュー作以来のファンなので、この本も刊行時に読んでいますし、文庫化されてからも何度か読み返しています。

読書癖について続けます。

高校生にもなれば、授業時間中に文庫本を読んでましたし、大学生になれば授業にすらロクに出席せずに散歩と読書に埋没できます。井の頭公園のベンチが指定席でした。(笑)

「労働は神様の与えたもうた罰」なので、読書していればOKな文系の大学院に進学して、専門は西洋美術史でしたから絵画や彫刻、建築を眺めて横文字の本を辞書を引きながら読んでいました。文系の学問は「どんだけ読書してるか」を競争する様な面もありますから、活字の嫌いな学者って滅多にいませんよね。

そうは言っても、学門を職業にするには才能や熱意も必要なのです。筆者には”その手のもの”が決定的に不足していました。それで9年間の学生生活に終止符を打って、関西の映像制作会社に潜り込んだのです。幸い、読書は仕事のベースにもなるので、おおっぴらに本を読んでいました。流石に仕事にならなかったですけれど。(笑)

話を戻すと「趣味は読書」ではなくて、読書以外の時間に仕事をして食事を作って酒を飲んでいたのです。それが鉄道に乗ることに没頭してから読書量が激減しました。本を読まなくても平気な自分に正直驚きました。たぶん、時間の過ごし方の習慣が根本的に変化したのだと思います。

別に本なんぞ読まなくても愉しく日々が過ごせることに50歳になるまで気が付かなかった!

最近は「鉄道に乗る趣味」もソコソコ鎮静化してきたので、細々と読書を再開していますがかつてほど寸暇を惜しんで読書をすることはなくなりました。むしろボンヤリしてます。(笑)

しかし、相変わらず余暇はありません。山の様に撮影した鉄道写真を眺めてコラムを書くことを楽しんだり、音楽を聞きながら家事をやっているからです。同じモノを食べ続けても平気な様に、同じ事を延々とやって筆者は飽きません。基本的に退屈を感じないのです。どこかしら鈍感なのでしょう。

ちなみに学生時代は、長巻き400フィートのモノクロフィルム(TRI-X、ネオパンSSS、HP-5)をヨドバシで買ってきては自分でパトローネに巻いて小型の一眼レフで写真を撮りまくって遊んでいました。D-76で現像して紙焼きもやっていたので、これはりっぱに「趣味」ですね。紙焼きは、暗部のディテイルが綺麗なイルフォードが好みでした。(知人に聞いたらこれは旧イルフォードで新しいイルフォードの印画紙は違う特性なんだそうです)

この頃に鉄道趣味もあれば、今は撮るコトのできない廃線や古い車両の写真が残せたのに、とすごく残念に思っています。

閑話休題

鉄道に乗ることは、時刻表という精密な規定値を恣意的に組み合わせて好みの一筆書きを書き続けるというゲームです。同時にそれは「旅」でもあって、知らない風景の初めて嗅ぐ香りだったり、見知らぬ街角ですれ違う笑い声だったりするのです。

(写真・記事/住田至朗)

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