マンギナのエボラ治療センターで防護服を脱ぐスタッフ
コンゴ民主共和国(以下、コンゴ)の北東部にある北キブ州で、エボラ出血熱が流行している。国境なき医師団(MSF)は流行の中心地に治療センターを開院し、感染した患者の治療をするとともに、現地医療機関に感染制御・予防、除染と消毒、トレーニングなどを通じた支援を進めている。これまでの症例数や、流行発生からのMSFの対応をまとめた。
10回目のエボラ流行 これまでの数字(2018年9月3日現在・コンゴ保健省発表)
合計症例数:121件(確定例 91件、および ほぼ確実※例30件)
疑い例:14件
確定例のうち、死亡した人数: 51人
医療従事者の感染:17人
活動中のMSFスタッフ:337人 (北キブ州とイトゥリ州のエボラ・プロジェクト)
※「ほぼ確実」は、この地域で亡くなった人のうちエボラ確定例と関連があったが埋葬前に検査できなかった人。
最初の報告は心疾患の女性患者
マンギナでは、村に入る際に手洗いと体温計測が義務付けられている
今回のエボラ出血熱の最初の報告は、マンギナ出身の女性の症例だった。心疾患で7月19日に現地の診療所に入院し、退院後7月25日に自宅で死亡。出血熱の症状が出ていた。その後、家族にも同じ症状が現れ、1人が亡くなった。コンゴ保健省と世界保健機関(WHO)は現地で合同調査を行い、さらに6件の疑い例を発見。うち4人は検査で陽性反応が出たため、8月1日に流行宣言が出された。
マンギナは人口4万人。そこから32km(車で45分ほど)の都市ベニは、地域の行政の中心であり、約42万人が暮らしている。北キブ州では100以上の武装勢力が活動していると言われ、たびたび武力衝突が起きている。ここ数年、ベニは軍の支配下に置かれており、不安定な治安のため移動が不可能な地域もある。一方、一帯では商業がさかんで、親戚に会いに行ったり市場に品物を売りに行ったり、人びとはベニから約100kmのウガンダ国境を越えて行き来している。
コンゴでのMSFの対応マップ
MSFのエボラ対応の流れ(9月7日現在)
7月30日
北キブ州ベニ/マンギナのエボラ疑い例について連絡を受ける
7月31日
ルベロで活動していたチームから、調査チームがコンゴ保健省に同行する形で現地に入り、調査を開始。
8月1日
保健省がエボラ流行を宣言
8月1~3日
保健省の基本計画に基づき、流行対応の準備をする。
8月6日
隔離病棟をマンギナの拠点病院に設置。防護服装着方法や感染予防・制御、トリアージ※などの訓練を開始。(※重症度、緊急度などによって治療の優先順位を決めること)
8月7日
国立医生物学研究所の遺伝子解析結果から、流行しているウイルスが、最も致死率が高いザイール株であること、2018年前半に赤道州で報告された菌株とは異なることが確認された。
8月8日
WHOの監督の下、流行に対応する医療従事者への予防接種が始まる。
8月13日
イトゥリ州マンバサで症例が発見され、MSFチームが現地に入る。
8月14日
エボラ治療センターをマンギナで開院。37の疑い例と確定例が同日に入院。設計当初ベッド数は30床だったが、すぐに68床にまで増床。必要であれば最高で74床まで増床できるようになった。地域の診療所と、そのほか確定例を受け入れた診療所の除染・消毒も行った。
8月24日
マンギナの治療センターで基準に該当する患者に治療薬の提供を開始。
8月28日
マケケに一時滞在センターを開院。
9月2日
マンギナの南、ブテンボの町で疑い例が発見され、MSFが調査に入る。
9月4日
ブテンボの症例が確定。
9月5日
小規模な隔離センターの設置を始め、感染疑いの患者の搬送と、死亡例のあった地域の医療施設の除染を支援。
回復例はあるものの、制御はまだ先
衛生管理はエボラ対応の最重要事項
9月3日午後5時までに、MSFはマンギナで65人のエボラ確定例を治療、合計124人の患者が検査のため入院した。エボラ確定例のうち29人は回復して退院した。
イトゥリ州でもマンバサとマケケで活動。医療施設を訪問しスタッフを訓練して適切にエボラ疑い例のトリアージを行えるようにするほか、必要に応じて隔離病棟も設置できるようにしている。北キブ州との境界にあるマケケの一時滞在センターでは、疑い例を隔離してエボラウイルスの検査を行っている。陽性反応が出た場合は、車でマンギナかベニのエボラ治療センターに移送される。このセンターの存在で、地域におけるエボラ対応への抵抗感が少しでも和らぐことが期待されている。また、州境からビヤカトまでの地域では、イトゥリ州への感染拡大防止のため、医療スタッフ、宗教指導者、埋葬人など、感染リスクの高い人に予防接種を実施する許可を得た。
ウガンダにいるMSFチームも、国境を越えて流行する事態に備えている。国境を越えてすぐの小さな町、ブウェラでは隔離病棟用テントを設置。ウガンダの通常のプロジェクトでも、隔離病棟用テントを張った。
さらに、北キブ州とイトゥリ州内にあるMSFの通常のプロジェクト全てに、防護服などのエボラ対応用機器を供給。また、適切な衛生・感染制御ガイドラインを導入して、患者を汚染リスクから守り、流行拡大を防いでいる。
ウイルスに接触した人の追跡調査と経過観察は、コンゴ保健省がWHOの疫学者チームと担っている。流行が始まって以来、4100人以上の接触者が特定され、2300人以上が保健省による経過観察を受けた。
現在、症例数は激減しているものの、制御とは言えない状況だ。マンギナでは、新規症例がエボラ治療センターに来院し続けている。疑い例が予想よりも少ないのは、感染者数が減っていることだけでなく、発症している患者が治安の悪さから来院を控えているか、早期入院と治療開始がいかに大切か理解していない可能性もある。また、報告されないまま地域で亡くなっている人が何人いるのかも明らかではない。
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