【MLB】圧巻防御率も勝ち星は伸びず…メッツ右腕デグロムはサイ・ヤング賞に輝くのか

チームが低迷する中、快投を続けるメッツのジェイコブ・デグロム【写真:Getty Images】

28登板のうち27登板で3失点以下もチーム低迷で勝ち星伸びず

 メッツのジェイコブ・デグロムが3日(日本時間4日)のドジャース戦を6回1失点で投げ、先発で25試合連続3失点以下とした。これは1985年にメッツのドワイト・グッデンがマークした24試合連続を更新するメジャー記録であった。「偉大な先輩と並び称されるのは光栄だ。ただ、私はチームの勝利に貢献できるように目の前の登板に集中してきただけ。これからもそれを続けていくつもりだ」と話していた。

 デグロムはこの時が今季28試合目。4月10日のマーリンズ戦で4失点だったのを除く27試合が3失点以下と、抜群の安定感を示している。防御率は当然素晴らしく、ア、ナ両リーグを通じて1位の1.68であった。

 ところが打線の援護に恵まれず、これだけ好投を続けながらも白星が増えない。この時点で8勝8敗。1985年のグッデンは3失点以下の投球を続けた24試合の間、18勝3敗だった。一方、今季のデグロムはこの25試合の間、6勝8敗と負け越している。投球内容に文句はなく、ナショナルズのマックス・シャーザーとともにサイ・ヤング賞の候補に名前が挙がっているほど。ただ、これまでの同賞受賞者を見ると、先発投手で負け越した例はない(救援投手では2002年にドジャースのエリック・ガニエが2勝3敗55セーブ、防御率1.20で受賞している。なお1979年カブスのブルース・スーターは6勝6敗37セーブ、防御率2.22と、勝ち越しゼロだった)。史上初めて、負け越しの先発投手が同賞を受けるのか、気になり始めている。

2010年はわずかに1つ勝ち越したヘルナンデスが受賞

 思い出すのは、2010年のマリナーズ、フェリックス・ヘルナンデスである。防御率2.27と投球回249回2/3はア・リーグ1位。奪三振232はトップに1個足りないだけの2位だった。内容的には非の打ちどころがなかった。ところが、西地区最下位のマリナーズで投げていたため、勝敗は13勝12敗。たった1つ勝ち越しただけだった。

 同賞のライバルは、東地区で優勝したレイズのデービッド・プライスで19勝6敗、防御率2.72。そしてワイルドカードでプレーオフ進出をしたヤンキースのC.C.サバシアも同じく有力候補と目され、21勝7敗、防御率3.18だった。

 実は、筆者はこの年、ア・リーグのサイ・ヤング賞に投票することになっていたのだが、最後まで迷った。内容ならばヘルナンデスなのだが、伝統的な判断基準も気になる。すると、ヘルナンデスはいかにも勝ち星が少ない。デグロムも言っていたが、先発投手たちはまず間違いなく「自分の仕事はチームに勝利の機会をもたらすこと」と口にする。ならば勝利数は無視できないのではないか、と考えるのである。

 9月には内容重視でヘルナンデスに傾いていたのだが、さすがに勝ち越してもらわないと投票しづらいな、と思っていた。だから、最終登板となった9月28日に13勝目を挙げて白星が1つ先行して終わった時は「これで躊躇なくヘルナンデスに入れられる」と、ほっとしたものだった。

 投票の結果は、満票28のうちヘルナンデスが1位票21でトップ。次点のプライスが1位票4、続くサバシアは1位票3だった。もう少し接戦になるかと思ったが、意外と大差だった。やはり評価の基準が変わってきているのだろうと感じたものだ。ひと昔前だったらどうなっていたのだろうか? また、もしヘルナンデスが12勝12敗だったら、もう少し次点と接近したのだろうか? 

 そこで今季である。ナ・リーグのサイ・ヤング賞に投票することになっている記者は、頭を悩ませているのではないか。筆者は今季、投票者ではないので第三者として結果を楽しみにしようと思う。投票の締め切りは公式戦最終日である。(樋口浩一 / Hirokazu Higuchi)

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