【侍U-18代表】吉田輝星が得た大きな財産 感じた“仲間との差”と新たな収穫

侍ジャパンU-18代表に選出されていた吉田輝星【写真:荒川祐史】

韓国戦、チャイニーズ・タイペイ戦で2つの黒星

 10日まで宮崎市内で行われていた「第12回 BFA U18アジア選手権」。2大会連続での優勝を狙った侍ジャパンU-18代表はオープニングラウンド第3戦で韓国に、スーパーラウンド初戦でチャイニーズ・タイペイに相次いで敗れて決勝進出を逃した。3位決定戦で中国に圧勝し、3位以内に与えられる、来年に韓国・釜山で行われる「第29回 WBSC U-18ワールドカップ」の出場権こそ掴んだものの、悔しい結果に終わった。

 今大会で喫した2つの黒星。この試合で、ともに敗戦投手となったのが、吉田輝星(金足農)だった。金足農を秋田県勢として103年ぶりの決勝に導き、甲子園準優勝に輝いた吉田。今大会では大きな注目と期待を集めることとなったが、吉田自身は悔しさばかりが残る結果となった。

 大会初登板となった5日の韓国戦では初回に3ランを浴び、結果的にこれが決勝点。2回以降は無失点投球を続けたが、味方打線も援護できなかった。7日のチャイニーズ・タイペイ戦は4回から柿木蓮(大阪桐蔭)のあとを受けて2番手で登板。その代わりばなの4回に2点を失い、またしても打線が反撃できなかった。

 本人は甲子園での疲労を否定していたが、それでも、やはり本調子ではなかったように思われる。灼熱の甲子園で800球以上を投げた疲れは、本人が思っている以上に深いはずだ。チャイニーズ・タイペイ戦後、雨による2日間の中止があったが、この間、吉田の練習メニューは、ストレッチなどのリカバリーメニューばかりだった。

 本人は登板への意欲を見せていた3位決定戦の中国戦でも、試合前の練習では他の投手陣からは離れてストレッチなどを行っており、当初から登板する予定はなかったのだろう。未来ある投手だけに、賢明な判断だった。中国戦を終えると「2試合ともダメな投球をしてしまって、取り返そうと思っていたんですけど、そういう機会がなくなってしまった。自分は未来を向いて次のステージでこの2試合をしっかり取り返せるように頑張って行こうと思っています」と、吉田は未来に視線を向けていた。

宿舎で同部屋の柿木は「効果的なトレーニングをしている」

 自身が登板した2試合への“悔い”を何度も口にしていた右腕だが、この侍ジャパンU-18代表で得た経験は必ずや将来の糧となる。吉田自身も語った収穫。その中で最たる例が、他のチームメートが野球に取り組む姿勢を見て、感じることができたことだろう。

「周りのメンバーの意識の高さというか。選ばれるメンバーなんで、全国の球児から選ばれた17人はやっぱり野球に対する考え方や熱意が違った。自分ももっと野球に真剣に、本気で取り組みたいなと思いました」

「甲子園に出ている学校を引っ張ってきたメンバーが集まっていて、すごく意識が高く、自分も負けていられないな、と。練習の取り組み方であったりをもう少し変えていかないといけない。普段の生活と野球が全く違う。普段の練習量でやっていると思っていても、こっちに来てみたら普通だった。それ以上にやらないと、この17人のメンバーより良い結果は残せない」

 甲子園の決勝で投げ合った柿木蓮(大阪桐蔭)とは宿舎で同部屋だった。練習中もよく言葉を交わし、盟友となった。他愛もない話はもちろんだが、会話の中から学ぶことも多く「すごい体をしてるんですけど、それだけしっかり効果的なトレーニングをしていた。体幹とかを軽く教えてもらいましたけど、そういうトレーニング面もしっかり見習っていきたいなと思いました」という。

 本来の調子ではないながら、2試合での登板で掴んだこともあった。「ストレートでグイグイ押すピッチングじゃ海外の選手たちは抑えられなかったんで。そういうところでツーシームとフォークとかをうまく使っていけた。そういう意味では、新しいピッチングスタイルのきっかけを作れたかなと思う」。今大会に備え、小さく右打者の内に切れ込む2種類目のツーシームを習得。さらには、試合では初めてフォークも解禁した。

2種類目のツーシームとフォークを解禁

 そのどちらもが試合で効果を発揮した。確かに2試合ともに失点したが、韓国戦では6回2安打、チャイニーズ・タイペイ戦では5回4安打と粘りの投球を見せた。本来の真っ直ぐの威力ではないながら、大崩れすることなく粘れたのは、この2つの新たな武器によるところも大きかった。

「自分のいいところというよりも、足りないところがすごく目立った。その投手のスタイルもあると思うけど、1つのスタイルだけじゃなくて色んなスタイルを身につけてしっかりやれば、調子の悪い時でも違うスタイルを使えば、工夫したりできると思う。そういうものを吸収する能力もまだ足りないと思うので、そういう能力をつけていきたい。もう少し下半身を使ったフォームを心がけて、変化球の精度ももっと上げたい」

 具体的に、投手としての課題も掲げていた吉田輝星。秋田県大会、決勝まで戦った甲子園、そして侍ジャパンU-18代表と、激動の2か月間を過ごしてきた。慣れない環境に身を置き、最後に語った「普通の日常に戻りたい。金足農のチームメイトに会って話したい」との言葉が本音だろう。30日からは福井国体が始まる。まずは、地元・秋田の空気に触れ、その体をゆっくりと労ってほしいものだ。(福谷佑介 / Yusuke Fukutani)

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