「壁」取り除き2020年目指す 総合ディレクターが語るヨコハマ・パラトリ

 障害者とアーティストをつなぎ、横浜トリエンナーレ(横トリ)に合わせて3年に1度行われるアートイベント「ヨコハマ・パラトリエンナーレ」(パラトリ)。総合ディレクターを務める栗栖良依(40)に、2017年の開催を振り返りながら、最終回となる20年に向けた思いを聞いた。

 同イベントは、障害者と国内外で活躍するアーティストを結び付けて、多様な物作りを行うNPO法人「スローレーベル」(横浜市神奈川区)が、14年に立ち上げた。

 17年は象の鼻パーク(同市中区)で、パフォーマンスを主体とした華やかなステージが繰り広げられ、障害の有無を超えて、国内外から1万人以上が参加する盛況ぶりとなった。

 「14年には、表現者として参加した障害者はわずか数人だったのが、今回は100人を超え、名前も覚えられなかった」と栗栖。

 これはイベントに参加する障害者の心理的、物理的な壁をいかに取り除くかという初回終了時からの課題に対し、地道な取り組みを続けてきた成果だという。

 栗栖自身、10年に骨肉腫を発病し、つえを突いて活動する障害者でもある。

 「障害のない人と一緒に作業することに対して、できなかったら迷惑を掛けてしまう、と障害者が遠慮や尻込みしてしまうことが、私には意外で、ショックでもあった」という。

 そうした心理的な不安を取り除くために、舞台上で障害者と一緒にパフォーマンスなどを行い、近くでサポートする伴走者「アカンパニスト」を設置し、人材を育成した。

 さらに、練習の案内をその人の障害に合った連絡手段で送ったり、不安を抱える家族の相談に乗ったり、と舞台に立つまでの事細かな問題を担当する「アクセスコーディネーター」も設置した。

 「どちらも私たちがつくった役割であり、仕事の範囲や内容は手探り状態だった。スローレーベルのイベントなどを通じて、スキルを上げていった」

 20年のパラトリを見据え「スタッフのスキルが上がれば上がるほど、さまざまな障害のある人への対応が可能になり、それによってもっと多くの障害者が参加できるようになる」と、ノウハウを築き上げてきた。

 こうしたノウハウをどのように残し、地域で広めていくかが今後の課題。

 「スポーツセンターやカルチャーセンターなどのダンス教室や絵画教室に参加したくてもできずにいる人々を、一人でも二人でも受け入れられるようになることが重要」と、地域に根付かせるすべを探っている。

 これまでの活動が評価され、栗栖は16年のリオ・パラリンピックでは大会旗引き継ぎ式のステージアドバイザーを務めた。「東京2020開会式・閉会式4式典総合プランニングチーム」のメンバーにも選出された。

 「普段は、障害者を自分とは違う生き方の人と思っていても、両者が交じり合った空間に足を踏み入れると、何も変わらないんだな、という当たり前のことに気付く。パラトリもいつまでもパラでなくていい。横トリに当たり前に参加できるのが、目指すべき社会の在り方だと思う」

 2017年パラトリの準備過程や本番の様子を、映像作家の池田美都が撮影したアートドキュメンタリー映画「sense of oneness とけあうところ」の上映会を、10月8日午後2時から、横浜ラポール(同市港北区)で行う。上映後、栗栖が20年の概要を発表する。定員300人で予約優先。申し込み、問い合わせはパラトリ事務局TEL045(661)0602。

ヨコハマ・パラトリエンナーレ2017の様子(©Hajime Kato)

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