トップ5中4台を占めたホンダNSX、10kg増を克服した車体軽量化とスーパーフォーミュラからの手応え《GT500予選あと読み》

 ホンダNSXが1-3-4-5位と、上位を固めることになったスーパーGT第6戦SUGO、GT500クラスの予選。ウエイトハンデ80kg分を搭載したRAYBRIG NSX-GTがポールポジションを獲得したが、タイトルを争うライバルメーカーたちはNSXの上位をなぜ許してしまったのか。MOTUL AUTECH GT-Rの松田次生、ZENT CERUMO LC500の立川祐路に聞いた。

「タイヤが全然、機能しませんでした。Q1は赤旗の影響で最後はウォームアップ1周になりましたが、温まってはいました。全体的にグリップが低くて、ピークが来ていない印象です。最終コーナーが特に曲がらなくて、去年、一昨年から、このSUGOでずっと悩んでいる部分です。いろいろ変えて持ち込んで来てはいるんですけど、今回もダメでした」と話すのは、70kg分のウエイトハンデを搭載して臨んだMOTUL GT-Rの松田次生。

「例年、SUGOではレースで上位に上がって来てはいますが、予選が弱い。今のうちのパッケージではどう頑張っても、とてもポールのタイム、1分10秒台の前半は見えない状況です。ウエイトハンデの重い(80kg分)RAYBRIG NSX-GTが、軽いカルソニック IMPUL GT-R(WH36kg)より速いのが信じられません。次元がちょっと違いますね」と、次生は素直にウエイトハンデが10kg重いRAYBRIG NSX-GT、そしてNSX+ブリヂストン陣営の速さを認める。

 MOTUL GT-Rとしては、前戦の富士では逆に予選で驚異的な速さでポールポジションを獲得しながら、レースでは後退、9位で終えることになった。今回は逆に予選で失敗と、不安定な戦いとなっている。

「ミシュランはゴムが乗れば乗るほど速くなる傾向がありますが、雨上がりのグリーントラックの影響もあったと思います。セットアップとタイヤ、その組み合わせですが、それにしても、今年のブリヂストンのタイヤの進化が速い印象です」

 同じミシュランのCRAFTSPORTS MOTUL GT-Rも予選13番手に終わっており、チャンピオンシップを狙う上でGT-Rとミシュランのパッケージが、大きな岐路に立たされている状況だ。

「アタックの時、馬の背でかなり行きすぎてしまい、ブレーキでだいぶ失敗してロックして、土俵際ギリギリまで行ってしまいました」と話すのはウエイトハンデ60kgのZENT LC500で予選Q2を担当した立川祐路。

「ただ、そのミスがなかったとしても、上位に行くのは難しかったと思います。選んだタイヤもQ2はQ1から変えていますし。たとえタイヤが今回の中でベストでアタックもミスがなかったとしても、1分10秒前半のタイムは行けないですね。NSXが速いです。今回のホンダはストレートも速くて、明日はホンダにピックアップが起きて、ウチと同じレベルで戦えるかどうか。それくらいNSXが速い印象です」と、立川もホンダの速さにはお手上げ状態だった。

 この第6戦SUGO戦から、NSXは最低重量が前戦10kg重くなったわけだが、今回の予選でなぜここまでの速さを見せられたのか。ひとつには今年のNSXとSUGOの相性の良さが挙げられるが、ホンダ陣営としても、10kg増に向けて細かな対策を施してきた。ホンダGTプロジェクトリーダーの佐伯昌浩エンジニアが話す。

■ホンダNSX-GTの最低重量10kg増の克服と、コーナー出口でのパフォーマンスアップ

「今回、10kg最低重量が重くなった対策として、クルマの方で細かい部分の軽量化を重ねてきまして、一例として断熱材やハーネスのブランケットなど細かい部分を軽くして、10kg分をすべてではないですがバラストとして低い位置に配置して、重心高を下げて少しでもマイナスになったものをプラスにしようと進めてきました」と佐伯リーダー。

 重心高の低さは、中高速コーナーの多いこのSUGOではメリットが大きくなる。

「そのお陰で、コーナリング速度が上がって、コーナーの脱出速度が絶対的に高くなったことで、直線も速くなったのかなと思います」と佐伯リーダー。

 ホンダ陣営はスーパーGTでは予選が特に強く、予選用のブースト設定がライバルよりも上回っており、一発のエンジンパフォーマンスが高いとライバル陣営は見ているが、佐伯プロジェクトリーダーはそれを否定しつつも、新たな対策の効果を強調する。

「直線速度はウチの計測では最高速はライバルと同じくらいですので、コーナリングの脱出が高い分なのではないでしょうか。あと、スーパーフォーミュラの方で課題になっていたドライバビリティを、実は前回のスーパーフォーミュラの岡山戦から劇的に変えておりまして、このSUGOでもドライバビリティが改善している影響もあると思います」と佐伯リーダー。

 これまでスーパーフォーミュラでは富士のセクター3の登り区間などでトラクションのかかりに課題があり、リヤが滑る/タイヤの過剰な摩耗などがホンダ陣営の課題に挙がっていた。そのドライバビリティ、電子制御の部分を改善したものをスーパーフォーミュラ岡山で試し、手応えを得て、今回のスーパーGTSUGOにも取り入れたというのだ。

 車両の軽量化と重心高の低下、そしてエンジン面でのドライバビリティと細かな開発を積み重ねた結果が、予選上位5台中4台を締め、ウエイトハンデ80kgでRAYBRIGがポールポジションを獲得することになったわけだ。

「昔からこのSUGOではNSXは予選の一発タイムは出るので、明日のレースでタイヤがタレて飲み込まれないような展開になればいいなと思います」と最後に締めた佐伯リーダー。このまま明日の決勝もNSXが一方的に活躍するパターンとなるのか、それともライバル陣営を息を吹き返すか。明日の決勝もまた、不安定な天候の中で行われることになりそうだが、レース展開は果たしてどうなるか──。

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