避難指示を受け取る側に立った情報提供のあり方 避難が必要な危険な状況と何をすべきか的確に伝えよ

平成30年7月豪雨で大被害を受けた岡山県倉敷市真備町

毎年のように日本列島を襲う水害・土石流・地震などの災害時における避難勧告や避難指示のあり方がクローズアップされている。災害時に、地元自治体などが発する勧告・指示が地域住民に適切に(タイムリーに)伝わっているのか、疑問視する声も聴く。同時に、勧告・指示を受けた地元住民が避難しようとしない「勧告無視・避難拒否」も重大な社会問題になっている。

平成29年(2017)1月、内閣府(防災担当)が改定した「避難勧告等に関するガイドライン(避難行動・情報伝達編)」には過去の反省や今日的課題に立った重要な指摘が数多く興味をそそられる。同ガイドラインの主要な(災害時に役に立つ)指摘を適宜引用してみよう。

平時からの情報提供

地元自治体(市町村)は、居住者・施設管理者等が過去の被災実績に捉われず、これまでにない災害リスクにも対応できるよう、平時から居住者・施設管理者等に対して災害リスク情報や、災害時に対象者がとるべき避難行動、避難勧告等の発令単位となる地区名について、その考え方も含めて説明を徹底すべきである。

特に、避難行動に関しては、(1)避難勧告等が発令された段階で指定緊急避難場所へ立退き避難すること等のとるべき避難行動をあらかじめ考えておくことや(2)災害時には状況に応じて「近隣の安全な場所」への立退き避難、「屋内安全確保」といった臨機応変な避難行動をとらなければならない場合があることを十分に周知するとともに(3)居住者等が最終的に避難行動を判断しなければならないということを確実に伝えるべきである。

地方自治体(市町村)は、居住者・施設管理者等が避難行動を判断する際に参考となる各種の防災関連情報を入手しやすくするための環境整備を進めるとともに、居住者・施設管理者等に対して、防災関連情報の入手手段や活用方法等について平時から周知しておくべきである。

居住者・施設管理者等への防災知識の継続的な普及を図るため、映像等を用いたわかりやすい資料により、児童を含めた防災教育を積極的に進めることが望ましい。

居住者・施設管理者等が避難行動をあらかじめ認識するための取組み

自治体は災害種別毎にハザードマップを作成し、居住者・施設管理者等への配布や広報に努めているが、様々な災害が想定されること、災害発生時に使われる形で保管されていない等から、実際の避難行動に十分役立っていない可能性がある。

避難勧告等が発令された場合、居住者等が短時間のうちに適切な避難行動をとるためには、自分の身は自分で守るという意識の下、居住者等が、あらかじめ想定される災害毎にどのような避難行動をとれば良いか、立退き避難をする場合にどこに行けば良いか、避難に際してどのような情報に着目すれば良いか等をあらかじめ認識し、居住者等が主体的に具体的な避難に関する計画を検討しておく必要がある。

施設管理者等においては、利用者の避難誘導等を適切に実施する必要があることから、災害毎に利用者がとるべき避難行動、避難先、避難に際して着目すべき情報等をあらかじめ認識し、平時から具体的な災害計画を策定し、訓練を実施しておく必要がある。

そのためには、居住者・施設管理者等が、想定される災害毎に、それぞれ避難すべき施設や避難に際して確認すべき防災情報など、避難に当たりあらかじめ把握しておくべき情報を記載する「災害・避難カード」を作成することが望ましい。
災害避難カードにより、災害種別毎に作成されているハザードマップ等の情報を基にして、各家庭や各施設において、災害種別毎にどう行動するのかを確認し、災害時は、自らWeb 上の防災情報や、市町村長が発する避難勧告等の情報を判断材料として、悩むことなく、あらかじめ定めた避難行動をとることができるようにしておく必要がある。

災害発生のおそれが生じた場合における情報の伝達

台風による大雨発生等、事前に予測が可能な場合において、災害発生の危険性が高まった場合には、災害の危険が去るまでの間、避難勧告等の発令の今後の見通し、発令時に対象者がとるべき避難行動等について、時々刻々と変化する状況を居住者・施設管理者等に対して繰り返しわかりやすい言葉で伝達することが望ましい。特に、以下について徹底を図ることが望ましい。

・気象警報等、土砂災害警戒情報、指定河川洪水予報、土砂災害警戒判定メッシュ情報などの防災気象情報等を収集し、その時点の状況や避難勧告等の発令の見通し等居住者・施設管理者等に対して早い段階から確実な情報提供を行うこと
・ 避難場所については、避難勧告等発令時に円滑に避難できるよう、事前に居住者・施設管理者等に周知すること
・ 避難勧告等の発令時に、その対象者を明確にするとともに、対象者ごとにとるべき具体的な避難行動を、災害発生前から周知すること
また、市町村は、川の映像情報の提供等、居住者・施設管理者等が避難しなければらないと思うような情報提供を実施することが望ましい。加えて、市町村は、お互いに避難行動を呼19びかける地域での声かけがなされやすいような環境整備を進めることが望ましい。

茨城県常総市で2015年に起きた水害被害

避難勧告等の伝達

避難勧告等を発令する際には、その対象者を明確にするとともに、対象者ごとにとるべき避難行動がわかるように伝達すべきである。また、避難勧告等の伝達は、共通の情報を多様な伝達手段を組み合わせることで、広く確実に伝達すべきである。危機的な状況になった場合は、市町村長から居住者・施設管理者等に直接呼びかけることも考えられる。避難準備・高齢者等避難開始の伝達にあたっては、避難に時間のかかる要配慮者とその支援者は避難を開始することを確実に伝達すべきである。また、その他の人については、立退き避難の準備を整えるとともに、急激な水位上昇のおそれがある河川沿いの居住者や、土砂災害警戒区域・危険箇所等の居住者等については、事前予測が困難であることから、避難準備・高齢者等避難開始の段階から要配慮者に立退き避難開始を求めることに加え、その他の居住者等に対しても自発的に避難開始することを伝達すべきである。

防災行政無線は、大量の情報を正確に伝達することが難しいことから、伝達文は簡潔にすること、避難行動をとってもらうために緊迫感のある表現で、対象者がとるべき行動を具体的に示すこと、風雨等で聴き取りづらいことから繰り返すこととすべきである。

避難勧告等を発令する際には、対象者がとるべき避難行動を理解できるよう、どのような災害が、どの地域に発生するおそれがあるのか、どのような避難行動をとるべきか等を具体的に伝える必要があることから、市町村は、予めマニュアル等に災害種別に応じた伝達文を定めておくべきである。
                 ◇
以下に、防災行政無線を使用して、口頭で伝達する場合の避難勧告等の伝達文の一例を示す。

<避難勧告等の伝達文の例>
1) 避難準備・高齢者等避難開始の伝達文の例
■緊急放送、緊急放送、避難準備・高齢者等避難開始発令。
■こちらは、○○市です。
■○○地区に○○川に関する避難準備・高齢者等避難開始を発令しました。
■○○川が氾濫するおそれのある水位に近づいています。
■次に該当する方は、避難を開始してください。
・お年寄りの方、体の不自由な方、小さな子供がいらっしゃる方など、避難に時間
のかかる方と、その避難を支援する方については、避難を開始してください。
・川沿いにお住まいの方(急激に水位が上昇する等、早めの避難が必要となる地区
がある場合に言及)については、避難を開始してください。
■それ以外の方については、避難の準備を整え、気象情報に注意して、危険だと思ったら早めに避難をしてください。
■避難場所への避難が困難な場合は、近くの安全な場所に避難してください。
2) 避難勧告の伝達文の例
■緊急放送、緊急放送、避難勧告発令。
■こちらは、○○市です。
■○○地区に○○川に関する避難勧告を発令しました。
■○○川が氾濫するおそれのある水位に到達しました。
■速やかに避難を開始してください。
■避難場所への避難が危険な場合は、近くの安全な場所に避難するか、屋内の高いところに避難してください。
3) 避難指示(緊急)の伝達文の例
■緊急放送、緊急放送、避難指示発令。
■こちらは、○○市です。
■○○地区に○○川に関する避難指示を発令しました。
■○○川の水位が堤防を越えるおそれがあります。
■未だ避難していない方は、緊急に避難をしてください。
■避難場所への避難が危険な場合は、近くの安全な場所に緊急に避難するか、屋内の高いところに緊急に避難してください。
■○○地区で堤防から水があふれだしました。現在、浸水により○○道は通行できない状況です。○○地区を避難中の方は大至急、近くの安全な場所に緊急に避難するか、屋内の安全な場所に避難してください。

洪水等に関する情報

洪水予報河川における指定河川洪水予報(水位予測)、水位周知河川における水位到達情報

<避難行動を判断する目安とする水位>
洪水予報河川及び水位周知河川では、避難行動を判断する目安とする水位が河川毎に定められている。なお、洪水予報河川は、流域面積が大きく、洪水により大きな損害を生ずる河川について、その区間を定めて指定される。
洪水予報河川:水位や流量の予報(洪水予報)が行われる河川約400河川
水位周知河川:現状の水位や流量の情報が提供される河川約1600河川
(平成28年3月時点)

氾濫注意水位: 水防団の出動の目安
避難判断水位: 市町村長の避難準備・高齢者等避難開始の発表判断の目安、河川
の氾濫に関する居住者等への注意喚起
氾濫危険水位: 市町村長の避難勧告等の発令判断の目安、居住者等の避難判断、
相当の家屋浸水等の被害を生じる氾濫のおそれがある水位

<指定河川洪水予報及び水位到達情報の名称と発出されるタイミング>
洪水予報河川における指定河川洪水予報、水位周知河川における水位到達情報では、到達した水位に応じた警報等が発表される。指定河川洪水予報、水位到達情報の発表単位に複数の主要な水位観測所が含まれている場合は、そのうち最も危険度が高い水位観測所の水位等に応じた指定河川洪水予報、水位到達情報が発表される。
さらに、洪水予報河川においては、指定河川洪水予報として、各水位への到達にあわせて水位予測が公表される。水位予測は主要な水位観測所毎に発表される。水位予測は3時間程度先までであることが多い。
指定河川洪水予報、

<水位到達情報>
状況(2段に分かれているものは、上段は指定河川洪水予報、下段は水位到達情報を指す)
氾濫発生情報・氾濫が発生した時
氾濫危険情報・氾濫危険水位に到達した時
氾濫警戒情報・避難判断水位に到達した時、あるいは水位予測に基づき氾濫危
険水位に達すると見込まれた時
・避難判断水位に到達した時
氾濫注意情報・氾濫注意水位に到達し、さらに水位の上昇が見込まれた時
・氾濫注意水位に到達した時

避難勧告等の伝達手段と方法

避難勧告等を居住者・施設管理者等に広く確実に伝達するため、また、停電や機器・システム等に予期せぬトラブル等があることも想定し、共通の情報を可能な限り多様な伝達手段を組み合わせることが基本である。

そのために、市町村防災行政無線等、情報の受け手側の能動的な操作を伴わず、必要な情報が自動的に配信されるタイプの伝達手段であるプッシュ型の伝達手段を活用する。ただし、プッシュ型の伝達手段のうち、屋外拡声器を用いた市町村防災行政無線(同報系)での伝達については、大雨等により屋外での音声による伝達が難しい面もあることから、市町村防災行政無線(同報系)戸別受信機、IP(Internet Protocol)告知システム、緊急速報メール、登録制メールやコミュニティFM(自動起動ラジオを使用する場合)等の屋内で受信可能な手段を組み合わせる。

より多くの受け手により詳細に情報を伝達するため、プッシュ型に加え、市町村ホームページのほか、SNS、ケーブルテレビ、コミュニティFM(一般のラジオ端末を使用する場合)、テレビ・ラジオやウェブ、テレビのデータ放送等、情報の受け手側の能動的な操作により、必要な情報を取りに行くタイプの伝達手段であるPULL 型手段も活用して伝達手段の多様化・多重化に取り組む。その際には、より効率的に情報を伝達するため、L アラートも活用することが望ましい。また、市町村のホームページの活用にあたっては緊急時のアクセス増によりサーバーがダウンしないよう回線増設等の対応を検討するとともに、市町村に問い合わせが殺到しないよう、伝達内容を工夫すべきである。

利用可能な情報伝達手段を最大限活用できるよう、平時から各伝達手段の点検や災害を想定した操作訓練等を行うべきである。また、災害時は職員の対応能力を大幅に上回る業務が発生するため、システム改良等による入力担当職員の負担軽減や、防災担当職員以外の部局の職員が避難勧告等の情報伝達を担う等、全庁をあげた役割分担の体制を構築しておくとともに、訓練等を通じた操作担当者の機器操作の習熟を推進すべきである。

伝達手段別の注意事項

あらかじめ、全ての伝達手段について、その手順を確認し、確実に伝達されるかの訓練も実施すべきである。さらに、人口や面積の規模が大きい市町村において、夜間や早朝に突発的局地的豪雨が発生した場合、プッシュ型手段による避難勧告等について、必要なエリアに伝達することが有効であると考えられる。同報系防災行政無線やIP 告知放送等については、市町村単位よりもエリアを限定して情報伝達できるものもあることから、地域の実情に応じて、その有効性や運用上の課題等を考慮した上で、プッシュ型手段の提供範囲等を検討することが望ましい。

<テレビ放送(ケーブルテレビを含む)>
テレビ放送は、避難勧告等の速報性の高い情報がテロップ(文字情報)により迅速に発信され、繰り返し呼びかけられるなど、避難行動に結びつきやすい伝達手段であるが、停電に弱い上、既に被害が発生した地域の情報が放送される場合が多く、これから避難が必要な地域の居住者・施設管理者等に対し、必要性が適切に伝わらない場合もある。また、特定の市町村や地域を対象とした詳細な情報伝達を繰り返し放送することが難しい場合も多い。このような短所を補うために、テレビのデータ放送を活用することも考えられる。

ケーブルテレビは、契約者に対して特定の地域の詳細な情報を伝達することができるが、有線設備であり、断線対策、停電対策が課題である。

<ラジオ放送(コミュニティFM を含む)>
ラジオは、携帯性に優れ、停電時でも電池があれば受信可能であるが、一般的に、テレビに比べてラジオの聴取率は低いことから、ラジオのみによって地域全体に緊急の情報伝達を行うのはやや困難である。

<市町村防災行政無線(同報系)>
防災行政無線は、自営網であるため一般的に耐災害性が高く、市町村が地域の居住者・施設管理者等に直接的に情報を伝えることができる手段であるが、屋外拡声器から伝達する場合は、大雨で音がかき消されたりすることがあるように、気象条件、設置場所、建物構造等によっては情報伝達が難しく、テレビ、ラジオ、メール等よりも伝達できる情報量は限られる。なお、屋外拡声器からの放送内容が聞き取りにくかった場合に、電話をかけることで放送内容を確認することができるテレフォンサービスを導入している場合もある。また、戸別受信機は、屋内で情報を受信することから、端末を設置している世帯により確実に情報を伝達できるが、都市部では、人口が多く全世帯への戸別受信機の配備は困難であり、屋外拡声器で対応せざるを得ない場合が多い。

<広報車、消防団による広報>
広報車は、避難勧告等を呼びかける地域を実際に巡回して直接伝達するため、現地状況に応じた顔が見える関係での避難の呼びかけができるが、対象地域へのアクセスルートが限られる場合や、その周辺一帯が浸水等の被害を受けている場合は、対象地域を巡回できないことがある。また、災害対応中に確保できる人員や車両が限られている場合は、直ちに全ての対象地域を巡回できない場合もある。

<電話、FAX、登録制メール>
固定電話、FAX、携帯電話(メールを含む)による情報伝達は、対象者に直接情報を伝えるため、確実性が高いといった利点があるが、停電に弱い上、電話による避難勧告等の情報伝達では、輻輳により繋がりにくい場合がある、電話番号が分かる相手にしか連絡が取れない、同時に複数の相手に連絡することができないといった課題がある。したがって、市町村は、電話を用いる場合は、自治会長等の限られた人に連絡するような仕組を構築しておく必要がある。一方、FAX やメールは、あらかじめ一斉送信を行う者を決め、連絡先を登録しておけば、一定程度の対象者に直接情報を伝えることができる。

<消防団、警察、自主防災組織、近隣の居住者等による直接的な声掛け>
直接的な声かけは、対象者に直接情報を伝えることができるため、確実性が高いといった利点があるが、訓練や地域連携等を通じて、いざというときに声掛けがしやすい雰囲気を地域コミュニティ内で醸成しておくことが望ましい。

内閣府作成の「ガイドライン」の指摘は正鵠を射ている。問題は、指摘が実践に役立てられるかどうか、いつにして、ここにかかっている。

謝辞:内閣府「避難勧告等に関するガイドライン」や国土交通省・国総研関連文献から引用させていただいた。感謝いたしたい。

(つづく)

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